語り継ぐ物語

 ロイトとライメは、レームに連れられて町へと帰って行きます。そろそろ山の方の空が赤くなってきていました。

「ええっ! ナリッサさんはお祭りに来ないの?」

 浮かれていたライメは、ようやくそんなことに気づきました。

「ライメは馬鹿だな。お祭りに来たら他の子供に見られるだろ」

「こら、ロイト。そんな言い方をすることはないだろう。すぐ喧嘩する男はどこの船にも乗せてもらえないぞ」

「おれは船乗りになんかならないからいいよ」

 レームに叱られたロイトは、またがしがしと頭を掻きました。

「本当はおれ、父さんと同じ仕事がしたかったんだ。荷物運びじゃなくて……魔女様に会って、薬をもらって、町の人に渡して食べ物や何かをもらって、それを魔女様に渡す方の仕事」

「あれだけでは食べていけないぞ」

「だったら、仕方ないから荷物運びもするよ」

「それに、あの仕事は船乗りよりもっと喧嘩したらまずい仕事だ」

「……じゃあ、気をつける」

 ロイトは俯きながら、素直に言いました。レームは驚いて空を見上げました。潮風が吹き、彼はふと二人を振り向きます。

「お前たちも大人になったら、魔女様の話をするんだぞ」

 いきなり何を言うのでしょうか。ロイトは首を傾げて答えました。

「分かってるよ。そうしないと魔女様が危ないんだろ」

「わたしも、絶対話すよ!」

 ライメは頭の花を触りながら、にこにこ笑って言いました。

「本当のナリッサさんとは違うけど、でも、素敵なお話だもん!」

 遠くから潮騒と、人々のざわめきが聞こえてきました。

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モルジャの物語 白沢悠 @yushrsw

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