第4話
目が覚めると、辺りは夜になっていた。あたしは同じ場所で倒れていたようだ。恐る恐るまわりを見渡すと、もう足たちもあたしそっくりさんもいなかった。あれはなんだったんだろうか? また会うことがあるんだろうか? 他人たちはまばらで、足早にどこかへ通り過ぎていた。変な虎が一匹倒れていようが倒れていまいが、どうでもいいのだ。所詮他人なのだから。気にすることはないんだ。そっと起き上がり、あたしは人の姿に戻った。ほっとしたことに、あたしはもう体のどこも透けてはいなかった。街に明かりがともっている。輝かしいネオンライト。あたしはふらふらと歩きながら、見上げると、星空に混じって、クラゲの群れがたくさん浮いていた。空が海のなかのように思えた。天井のない水族館のようにも思えた。クラゲしかいないけど。
触覚の長々しいクラゲたちが透明になって光ったり点滅したりしながら、ふわふわと空のなかを浮いたり沈んだりしている。絡まりそうなほど長い触覚がいくつもの配線コードのように見えた。電子クラゲか。そうか。あれはイルミネーションの一種なのかもしれなかった。
水面のような空は、波打って暗くなるなか、わずかに輝いていた。クラゲは空気中を遊泳する。長い触覚を自由自在に動かして、けだるげに踊る。綺麗、と思っていつまでも見ながら歩いていた。ユウタも一緒にいたらいいのに。空を泳ぐクラゲ、とっても綺麗だよ。一緒に手をつないで並んで歩きながら見たいな。
ユウタがここにいないことが、こんなにつまらないと思ったことは今まで一度もなかったのに。
クラゲを一匹掴まえて帰ったら、ユウタは喜んでくれるかな?
やっぱ要らないや。どんなに美しかったかを、あたしが覚えていて、帰って伝えてあげればいい。
ユウタ。今帰るね。
あたしは再び虎になって、アスファルトの地面を、思い切り蹴った。夜の街のなかを、一瞬で駆け抜けて、ユウタの待つマンションまで一目散に走った。
蛙を吐いた日 寅田大愛 @lovelove48torata
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