スズラン

 したいてあるいていた。

 それはべつに、くるしいからじゃない。ころばないように、つまずかないように、なにかをんでしまわないようにと、そのためにしたいているのだと、そうぶんかせた。

 ふとだれかのくるしむこえこえて、かおないままに、このひとわたしおなじだとかんじ、そのくるしみをこともなくかちっていた。たとえるならば、おたがいのからこぼれたこうふくらっていたようだった。

 それが【地面Terram】とのさいしょいだった。


 したいてあるいていた。

 それはきっと、今日きょうあおぞらまぶしくて、ついらしたくなってしまうほどのせいてんだったからで、ぶんそれはわたしのせいではない。たいようのせいだ。

 かれんだアスファルトをっていた、そうでもしないときみすくわれないとおもったから。


 おくじょうけるかぜも、このうすはいゆかも、みなたいようせいだ。ひかりとおさないわたしたちには、やがてれいがいひとつもなくわりがくるのだ。


ぬの?」


 かれなにわなかった。


 しばらくうつむいて、それからわたしほうをまっすぐにた。


「ごめんね。」


 したいたわたしがんきゅうに、らっしていくかれ姿すがたがあった。

 それはげきてきうつくしいじょうけいだった。

 もうえるはずもないのにさよならとわないのは、きっとそれはかれやさしさだったのだろう。

 こんなじゅうりょくしたがことを、わたしはこれこうくことはなかった。




 したいてあるいていた。

 いくらまわりにまえけとわれてもわたしとうていそんなになれるはずがなくて、鹿みたいにわらってかれらにってやった。理由わけもなくうつむいていたあのころわたしではない、と。


 したいてあるいていた。

 いまでもまだ、したていればどこかにかれ姿すがたうつるんじゃないかとたいしていた。だがそれはかなうはずもなく、かれあしあとはなくなり、にっこうさらされたアスファルトはげたようなにおいがした。


 テレビのてんほうちがってなどいなかったのだ。

 がらだけのこしてからっぽの【地面Terram】と、それをあざわらせいてん、そして、ここにいるわたしおおあめなのだから。

 だれこころれてないのに、かれってしまった。ぜつぼうれるわたし一人ひとりのこして。


 いまあとかたもなくえたかれわたしだけがれられるかのようで、まるでそれはとうめいにんげんさながらだった。

 そうなればわたしは、はなしたきにかせるスズランとでもおうか。


 いずれにせよ、わたしたちはきっと、うつくしい。


「ごめんね。」


 そのことは、いまでもわたしむねひびく。


 かれじんせいすべてが、そのよんふかきざまれている。


 姿すがたかたちえなくても、たしかにここにいる。


 このまちは、今日きょう透明きみいろかがやく。




【スズラン】


下を向いて歩いた 転ばない様に何も踏まない様にと

誰かの落とした 幸の欠片を拾って喰らった

下を向いて歩いた 今日も青空はいやに晴れていて

君の踏み潰した アスファルトを 追っていた


ごめんねと言いながら 君は落ちていく

下を向いた私の眼には 君が映る

さよならと言わないで 消えていくことが

この街で君だけが持つ 優しさだった


下を向いて歩いた 前を向くことが正しいと云われて

莫迦みたいに嗤った あの頃の私はとうにいない

下を向いて歩いた 見えない君をただ見つめていた

晴れの匂いがした アスファルトを照らしていた


テレビの予報も大正解 空っぽになってしまった君と

嘲笑う晴天と 大雨の私

ねぇ誰の心も晴れてないよ それなのに勝手に逝かないでよ

君は透明人間だ


ごめんねと言いながら 君は落ちていく

下を向いた私の眼には 君が映る

さよならと言わないで 消えていくことが

この街で君だけが持つ 優しさだった

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君色透明人間 / スズラン 亞屍(あかばね) @Akavane

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