誰かに手伝ってもらう
また数日が過ぎた。
他の皆は「新聞に載ったのが凹むほど恥ずかしかったんじゃないか」などと予想していたが、俺の頭に浮かんでいたのは、それとは違う理由だった。
陽が落ち込んでいるのは、生きているからだ。
あまりしゃべらなくなった陽はますます綺麗に見えたけれど、俺はそれが嫌だった。あんなに静かで大人しいものは陽じゃない。
その日の放課後、俺はとうとう屋上に彼を呼び出した。幸い屋上には人気がなく、多少物騒な話をしても大丈夫そうだった。
「絶対自殺だと思われない死に方、思いついたぞ」
俺がそう告げると、暗かった陽の表情が一気に明るくなった。見慣れたニヤニヤ笑いではなく、ほっとしたような、どこか子供っぽい笑顔だった。
「ホンマ!? やっぱ
俺は深呼吸した。やっぱりこの提案をするには勇気が必要だ。
「俺がお前を殺したらいいんだよ」
陽の顔に、それまでの笑顔が少し歪になったまま貼りついた。
俺は続けた。
「素手で首絞めたらどうかな。俺の方が体格いいし、たぶんいけると思う。手でやったら痕が残るだろうから、自殺には見えないと思うんだ」
「それで、直己はどうなるん?」陽は俺をまっすぐ見つめて言った。「警察にシラ切るんか?」
「俺の手の痕が残るからなぁ……とりあえず自首するよ。でも俺嘘下手だから、動機とかは黙秘で頑張る」
「そうか」
驚いたことに、陽は迷っているようだった。俺の発言を「嘘こけ」と笑い飛ばしたりしなかった。俺の話を与太ではなく、真面目な提案として検討しているのだ。
日が傾き、足元の影が伸びてフェンスに届くまで、俺たちは黙って屋上に立っていた。風が陽の前髪を何度か揺らした。
「やっぱり却下や」
陽が言った。
「直己に迷惑かかり過ぎるわ。ごめんな」
俺は安堵と、ほんの少し失望を感じながらうなずいた。
俺たちは言葉少なに駅までの道のりを歩き、地下鉄に揺られた。先に陽の家の最寄り駅に到着して、ドアが開く。
「じゃあな直己」
「おう、また明日」
陽は俺に軽く手を振ると、電車を降りていった。
なんだかふと、置き去りにされたような気持ちになった。
とぼとぼと家路についた俺は、沈んだ気持ちのまま一晩を過ごした。
そしてその次の日――。
陽はゴキゲンで登校してきた。
「おはよう直己! ええ天気やな」
教室に入ってきた陽は、俺の背中をバチーン! と叩くとガハガハ笑った。
ひさしぶりに生きてて楽しそうな奴を見たことに安堵しつつ、俺は(昨日のシリアスな俺に謝れ)と思った。
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