第64話 これからの私は

 私はレティとともに、お兄様の元に来ていた。

 私達に、何か用があるらしい。別に、それ自体は珍しいことではないのだが、告白後に呼び出されたため、色々と緊張してしまう。


「さて、お前達を呼び出したのは……少し、言いたいことがあるからだ」

「は、はい……」

「おや……」


 お兄様も、いつもと少し様子が違う気がする。

 やはり、私の告白により、精神が乱されているのだろう。

 そのことについては、非常に申し訳なく思っている。


「といっても、今日言いたいことがあったのはルリアだけだ。ただ、レティも、この場にいてもらう必要があると思ったから呼び出した」

「私に……ですか?」

「なるほど、大体わかりました」


 どうやら、用があるのは私だけだったようだ。

 ただ、レティにも聞いてもらう必要があることらしい。その言葉で、レティは全てを理解したようだが、一体どういうことだろう。


「ルリア……俺は、お前の告白に対して、正面から向き合えていなかった」

「え?」


 お兄様が口にした言葉に、私は驚いた。

 まさか、お兄様からそのことに触れてくるとは思っていなかったからだ。

 しかし、正面から向き合えていなかった訳ではないだろう。お兄様は、私の告白にきちんと答えてくれた。それが、正面から向き合うということではないのだろうか。


「レティに言われてわかった。俺は、お前に対して、曖昧な答えばかりを出していた。故に、俺の正直な気持ちをお前に伝えよう」

「しょ、正直な気持ち……」


 お兄様の言葉に、私は困惑した。

 まず、レティがお兄様にそのようなことを言ってくれていたことが驚きだ。私の告白を聞いていたことは教えてもらったが、私のために行動していてくれたことはとても嬉しい。

 しかし、曖昧な答えとはどういうことだろうか。そこは、少しわからない部分だ。


「し、しかし、お兄様が言ったことは、別に曖昧な答えという訳ではなかったと思います」

「いや、違う。俺はお前に、本心を打ち明けていない。それは、お前の勇気に対する侮辱だ。故に、俺は全てを明かすことにする」

「お兄様……」


 その言葉で、私はやっと理解できてきた。

 お兄様が曖昧だと言ったのは、自身の本心を打ち明けていなかったかららしい。

 それなら、私はそれを聞くべきなのだろう。お兄様の言っている通り、これは告白に対する対価なのだ。

 お兄様の本心が、どのようなものかはわからない。だが、私はそれを正面から受け止めるしかないのだ。


「ルリア、俺はお前のことを愛している。それは兄妹としての関係だけではない。だが、男女の関係とも少し違うものだ」

「少し違う……?」

「かつて、俺はお前に救われた。俺は、お前によって一人の真っ当な人間になれたのだ。故に、俺はお前のことを一生守っていくと決めた。それが、俺がお前にできる一番の恩返しだと思っていたからだ」

「お兄様……」


 お兄様は、私に対してそのようなことを言ってくる。

 お兄様がそのように考えていたことを、私は初めて知った。

 私の存在がお兄様を変えて、そのことからお兄様は私を守ってくれていた。それ自体は、とても嬉しいことである。


「だが、その気持ちはすぐに切り替わった。俺はお前のことを、大切な妹だと思うようになっていったからだ。守る気持ちは変わらなかったが、それはもう恩返しとしてだけではなくなった。俺は、兄としてお前を守りたいと思ったのだ」

「はい……」

「しかし、同時に俺が一人の男として、お前に惹かれていることも事実だろう。故に、俺の中には迷いが生まれているのだ」


 私に対して、お兄様は迷っているらしい。

 恩人に対する感情、妹に対する感情、思い人に対する感情、それがお兄様の中に、渦巻いているのだろう。


「だからこそ、俺はお前の感情を受け入れることはできない。それが今の俺の結論だ。このまま、お前の思いに応えたところで、俺はお前を幸せにすることはできない」

「そうですか……」


 そして、お兄様が出した結論は、私の思いを受け入れないという選択だった。

 迷っているまま、私の思いを受け入れて、不幸にするくらいなら、断ることを選択する。それが、お兄様の本心なのだ。

 お兄様がそれを明かしてくれたのは、私にとってとてもありがたいことだった。その考えを受けて、私がどうするべきか、結論が出たからだ。

 これも、レティがお兄様に色々と言ってくれたおかげだろう。今度、レティには何かお礼をしなければならない。


「お兄様の気持は、わかりました」

「そうか……」

「つまり、私の思いを受け入れてくれる可能性はあるということですね?」

「む?」


 私がお兄様の答えから導き出したのは、その結論だった。

 お兄様は、私を妹以上に見てくれている。前回は、妹であることを理由に断られたが、それは建前でしかなかった。

 つまり、お兄様が結論を出せれば、私の思いが実る可能性は、充分あるということである。


「お兄様が、そうなってくれるように、私はこれからも頑張りたいと思います」

「何?」

「諦めたりはしません。これから、お兄様が単純に私のことを好きになってくれるように、頑張ります」


 私の言葉に、お兄様は目を丸くしていた。

 しかし、すぐに笑みを見せてくれる。


「ふっ……お前には、敵いそうにないな」

「これは、お兄様もすぐに落ちてしまいそうですね……」


 お兄様とレティは、そんなことを言ってきた。

 私の言葉は、そんなにすごいことだっただろうか。


 何はともあれ、私のこれからの方針は決まった。

 私は新たな思いを胸に、これからも歩んでいくのだ。

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公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。 木山楽斗 @N420

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