第63話 諦めきれない心
お兄様に告白してから、私は一人部屋で考えていた。
それは、自身の選択とお兄様の返答についてのことだ。
私の思いを、お兄様は受け入れてくれなかった。だが、それは想定していたことだ。兄であるお兄様が、妹である私からの告白を受け入れることはないと思っていたのである。
ただ、お兄様の返答は少し曖昧なものだった。そのため、私は諦めなくてもいいのか、考えているのである。
「迷惑だよね……」
お兄様のどのような思いを抱いていようとも、今は私の思いを受け入れてはくれない。それは、確かな事実である。
しかし、それを変えることができれば、可能性がない訳ではないだろう。私が、しつこく迫っていけば、お兄様の気を変えることはできるかもしれない。
だが、それはかなり迷惑なことだろう。お兄様も、そのように迫られたら、困るはずである。
「諦める……」
そのため、私はこの思いを諦めるべきなのだろう。
しかし、長年抱いてきた思いをそう簡単に諦めることなどできないのである。
結局、私は今まで通り、お兄様に片思いしているしかできないのかもしれない。
なんだか、告白してもあまり変わらなかった気がする。いや、実際は変わっているはずだ。もっと自信を持とう。
「お姉様……」
「え?」
私がそんなことを考えていると、部屋の戸を叩く音とレティの声が聞こえてきた。
何か用でもあるのだろうか。
「レティ、何かな?」
「あ、お姉様、あの、ですね……」
「うん?」
私が戸を開けると、レティは少し戸惑った様子を見せてきた。
その反応で、私はなんとなく理解した。恐らく、レティは私とお兄様の間に何があったかを知っているのだ。
「レティ、もしかして、聞いていたの?」
「……はい、すみません」
私の予想通り、レティは私とお兄様のやり取りを聞いていたらしい。
別に、聞かれて嫌という訳ではないが、妹に告白を聞かれているという事実は、結構恥ずかしいものである。
ただ、怒っていないことはレティに伝えなければならない。私に申し訳なく思って、レティはこの態度なのだから。
「レティ、別に怒っていないから、安心して?」
「え? そ、そうですか? それなら、よかったですけど……」
私の言葉に、レティはほっとしたような表情になった。
やはり、かなり気にしていたらしい。
「お、お姉様、大丈夫ですか?」
「え? あ、うん。大丈夫だよ」
「そうですか……まあ、何かあったら、いつでも相談に乗りますからね」
「うん、ありがとう」
レティは、私のことをかなり心配してくれていたようだ。
こういう相談は、レティに時々してきた。だから、レティも気になって盗み聞きしてしまったのだろう。
よく考えてみれば、レティに何も相談しなかったのは間違いだったかもしれない。一人で決めて告白するより、レティに相談しておいた方が、心が軽くなったはずだろう。
「え?」
「うん? お姉様? どうしたんですか?」
そこで、私は驚きの声をあげてしまった。
なぜなら、お兄様がこちらに向かって歩いて来たのを見つけてしまったからだ。
私の表情を見て、レティも後ろを向く。兄妹三人が、お互いの存在を今認識したのだ。
「……」
お兄様は、私と目が合って少し表情を変えた。
その表情は、少し焦っているように見える。お兄様が、そのような表情をすることは、とても珍しい。それだけ、私の告白が衝撃的だったということだろうか。
「ルリアに……レティか。まあいい、お前達に話がある。少し来てくれるか?」
「え? あ、はい」
「ええ? 私も? 一体なんでしょうか?」
どうやら、お兄様は私達に何か用があるようだ。
こうして、私とレティは、お兄様の話を聞くことになるのだった。
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