2話 客だからって

 老人クレーマーが常連になって数ヶ月が

経ち、7月1日になった。


 この日から、レジ袋が有料化され、

1袋3円~かかるようになった。


 そして、コンビニでは、会計の際に、レジ袋がいるかどうかを聞かなくてはならない仕事が追加された。


 その数日後に事態は起こった。


 いつも通り仕事をしていると、あの老人クレーマーが来店した。


 内心最悪だが、一応は店に来る客。そして、私もこの人の苦情には軽く慣れてきていたので、いつもの平謝りで受け流す姿勢に入った。


 そして案の定、私がレジ担当をすることになった。いつも通り、より一層細心の注意を払いながら会計を進めた。そして、


「お客様。レジ袋はお必要でしょうか?」


「何バカなこと聞いてんだ。必要に決まってんだろ?お前はワシにこの量の荷物を抱えて持ち帰れとでも言うのか!」


「いえ。7月1日からレジ袋が有料化されまして。袋詰めする際に確認するよう義務化されたのでお聞きしております。」


「…は?袋に金がかかる?」


「はい。1袋3円ですが、必要でしょうか?」


「なんで袋如きに金を払わにゃならんのだ。それくらいタダで入れろ!」


「そう言われましても。有料化されましたので、必要であれば3円追加させていただきます。」


「………」


 すると、突如黙り込み、考え込む姿勢になった老人クレーマー。数秒後、顔を上げ、


「_____じゃあお前が代わりに払え。」


「…??」


あまりの失言に、私は言葉を失い、唖然とした。


「何度も言わせるな!だから、ワシの代わりにその3円を払え。それで済む話だ!!」


「…何故、私があなたの代わりに袋代を払わねばならないのでしょうか?」


「ワシは袋に金がかかることは知らんかった。それでも要求するならお前が払えばいい話だろう。たかが3円だ。早く袋に入れろ!」


「そう言われましても無理です。こちらと___」


「いちいち口ごたえするな!お客様は神様だぞ!早く入れんか!」


 もう私も我慢の限界だったのだろう。


「…では。」    「あぁ?なんて?」


「…では、その要望の通る他の店に行って

ください。」


 私でも驚くほどすんなりとこの言葉が出た。老人クレーマーもまさかこんな事言われると思わなかったのか、一瞬固まった後、


「何を言い出すのかと思えば他の店に行けだと?」


「…いえ。お客様は袋代を店員に負担させたそうですが、こちらの店舗ではそのサービスには対応しておりませんので先程ご説明したのですが、それでも納得頂けないようなので、それならその要望の通る店に行くのが最善かと思いましたので。」


「ワシはこの店を使わにゃならんのだ!それならそういうお前が辞めろ!」


 またしても無茶ぶりだが、当然この店の店長の私にそんなものは受け入れられない。


「この店の責任者は私です。そんなことは出来ません。」


「お前は何回言えば分かるんだ!お客様は神様だぞ!神様の言うことには素直に従わんか!」


「以前から思っていたのですが、その“お客様は神様”の意味、違いますよ。」


「ああ?なんだとっ!」


「その言葉の本来の意味は、“お客様を神様と同等の立場だと思って接客する”と、店側がお客様に対してのことです。何も、“客は神様だから何をしても良い”という意味ではないです。それに、店側にもお客様に守ってもらわなくてはならないルールというものがあるのです。それが通らないのであれば、どうぞ他店へ行ってください。」


「…だったら、ワシに100万円払え。それでもうこの店には二度と来ないでやる。」


 すると、今度は全く理解の出来ないことを

言い出した。


「……どういう事でしょうか?」


「今までこの店で使った金を全部返せ。全部だ。キリよく100万円にしておいてやる。」


「では、今まで買った商品とレシートをお持ちになってください。そうすればお返し致します。」


「だったら!慰謝料として100万円よこせ!」


 ……もう無茶苦茶である。


「どういう理屈でこちらに慰謝料を要求するのでしょうか?」


「折角この店に来てやってるのに急にもう来るなと言われた!名誉毀損だ。」


「…では、お互い弁護士をつけて裁判致しますか?やる気でしたら、こちらも相応の対応をさせていただきます。」


 さすがに老人クレーマーもそこまで考えてなかったのだろう。少し怯んだあと、周りに自分の行動が目立っていたことに気づくと、


「_____もう、こんな店頼まれても二度と使わんからな!」


 そう捨て台詞を吐いて店を後にした。



 これ以降、老人クレーマーが来店することは無くなって、店に平穏が戻った。


 私としては、店に来なくなっても電話等で慰謝料を要求されると思ったのだが、最後に私が言った「お互い弁護士をつけて裁判する」

という言葉が効いたのだろう。そういったことも起こらず、特に他のトラブルも無く、

私は精神的に回復していった。



 あの老人クレーマーが来ていたときは心労で体重が4kgも減っていたのだから、本当に助かる。










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神様と店員 紫月 玖優 @minatsuki_06

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