概要

私は「この」季節が嫌いなんだ。なくしてしまいたいくらいにね。
「日本は素敵な国だよう。おおかた一年に四回も姿を変えるんだから」
 それは年配の化学教師の口癖だった。私は「この」季節が嫌いであった。なくしてしまいたいといつも思っていた。
 田舎の高専は、特に季節に敏感であった。喜色の桜の並木が通学路の坂に沿って在るし、陽炎が校舎を揺らすし、裏手の山が真っ赤に色づくし、積もった雪が腰まで埋めてしまう。
 ある日私はいつも通り図書館で化学を勉強していると――見知らぬ女が話しかけてきた。
「何か用かね」
「私とさ、ちょっと付き合ってよ。――散歩に」
 そう言って彼女はこちらに微笑みかける。まさに、「この」季節にふさわしいものであった。
 その一声から始まる季節がやがて枯れるまでを、四編で描いた、青春文学。
  • 連載中1
  • 1,046文字
  • 更新
  • @tomoyo1567

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