罰ゲームと命令

『魔法学園の大罪魔術師』の二巻、モンスター文庫様より好評発売です!!!


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 皆が本気になり始めたビーチバレー。

 アナスタシアから始まったそのゲームは、先にティナの方へと手番が回ってきた。


「ふふっ、では誰から攻めていきましょうか?」


 ふわりと打ち上がったボールを見て、ティナが小さく微笑む。

 本気になり始めた面々は、皆緊迫した空気を作り出している。


 落とし、落とさせろ。


 そして、ティナはボールが手元に来たタイミングで───ユリス目掛けて大きくスパイクをした。


「俺狙いかよっ!?」


 ユリスは勢いよく放たれたボールを寸前で打ち上げる。

 落としてしまえば負け。と言いつつ、離れた場所で物理的に拾うのが難しいのは例外。


 しかし、本人近くに放られたボールであれば、その人の負けとなるのが一般的。

 どんな威力だろうが、近くに落とされれば負けてしまう。


 故に、ティナはユリスに強いボールを放ったのだ。


 そして、ユリスがかろうじて打ち上げたボールは皆のいる場所の中心へと向かっていく。

 それを、アナスタシアは思い切り走り、落下する寸前でユリス目掛けて打ち放つ。


「くそっ! アナまで!」


「当然よ。私はユリスに命令したいことがたくさんあるもの」


 この時、ティナとアナスタシアは悟った。


『互いにユリスが目的。であれば、共闘するほかない』と。


 互いに目的が一致しているのであれば共闘しない理由がない。

 何せ、敗者は一人で、組むことにデメリットは存在しないのだから。


 しかし、それはユリスとて同じ。


「リカード!」


「おうよっ!」


 ユリスが当てるだけで浮かばせたボールをリカードが拾いに行く。

 そして、ふわりと宙に浮かせると、ユリスはティナに向かってスパイクを放った。


「っ!」


 ティナが驚き、ボールを肩口で受けてしまう。

 それをアナスタシアがギリギリでフォロー。

 大きな弧を描き、ミラベルの下へと向かっていった。


「まさか、リカードがユリス側につくなんて……!」


「ん? おかしい話じゃないだろ?」


「それはどういうことでしょうか……?」


「いや、だって────」


 ユリスがリカードをチラりと見る。

 それを受けて、リカードは大きくサムズアップした。


「男の罰ゲームに価値なし!!!」


「っていうことだ」


 男が罰ゲームなど受けてしまったら、絵面とメリットがあまりにも酷い。

 女の子に命令してこそ、男は喜ぶものだ。


 ユリスは、自分が負けないように動き回りつつ、セシリアを援護する。

 リカードは、ユリスと自分さえ負けなければいい。


 男同士ならではの利害の一致であった。


「これは……中々骨が折れそうですね」


「そうね……2対2、イーブンね」


 アナスタシアとティナが構える。

 先程よりも気を引き締めて。


「うーん……どうしよっかなー?」


 そして、タッグが組まれている中、中立を保っているミラベルがボールの上げ先を考える。

 少しの逡巡のあと、とりあえず一番無難な場所へ上げることにした。


「ほいっ、セシリアちゃん」


「ありがとうございます、ミラベルさん!」


 優しく、ふんわりと受けやすくしたボールはセシリアの下へ上がっていく。

 よいしょ、と。セシリアは受ける体勢を取った。


(セシリアなら激しいボールは来ない!)


(ということは、取りやすいボールが上がるということです!)


(だったら、攻めるには持って行こいだぜ!)


(だから、先に拾った方が攻めに転じれる!)


 皆の集中が、セシリアのボールの上がった先に集まっていく。

 気迫は相手よりも先に拾うことに集中された。


 そして、セシリアは────


「えいっ!」


 ポスッ、と。

 


「「「「……………………」」」」


 上げるのではなく、当てる。

 ユリスや他の一同はまさか当てるということはしないだろうと考え────一瞬、硬直してしまった。


 だが、そうしている間にもボールは落下していき……砂浜へとボールが落下した。


「わぁっ! やりました!」


 セシリアが一人、落ちたボールを見てぴょんぴょんと跳ねながら喜ぶ。

 セシリアは話を聞かなかった側。つまり、この勝負にどんな意味が込められているのか、理解していない少女だ。


 故に、純粋に遊びの勝負だと思っていた。

 だから、ユリスに攻撃しても問題はない────そう思ったのだ。


 だが、現実は違うわけで……。


「あちゃー……まさぁこうなるとは思っていなかったかなー」


 沈黙した微妙な空気、そしてセシリアの喜びように状況を察しているミラベルが苦笑する。


 皆も徐々に状況が飲み込め────


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ユリスが驚愕の叫びを上げる。

 それも当然。まさか守ろうとしていた相手に────絶対に攻めて来ないだろう相手が攻撃してきたのだから。


 ユリスは思わずショックで膝をつく。

 同時に、男が落とした時点で敗北が決まるリカードも同じように膝をついた。


「まさか、セシリアが決めてくれるなんてね……」


「はい……これは予想外でした……」


 呆けた様子で、喜ぶセシリアを眺める二人。

 流石に、この結果だけはどうにも考えていなかったようだ。


 ────結局、このビーチバレーはユリスの負けになったわけで。

 ユリスはこれから、皆の命令を受ける羽目になってしまった。

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魔法学園の大罪魔術師(※旧タイトル︰大罪の魔術を極めた辺境領主の息子、何故か帰ってくれない聖女と共に王立魔法学園に入学する) 楓原 こうた【書籍5シリーズ発売中】 @hiiyo1012

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