ビーチバレー

『魔法学園の大罪魔術師』の二巻、モンスター文庫様より好評発売です!!!


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「よっしゃ、じゃあ遊ぶか!」


「「「「おー!!!!!」」」」


 ユリスの掛け声に合わせ、皆が大声を上げる。

 サンサンと照らされた太陽が綺麗に反射し、皆の笑顔が綺麗に映った。


 これぞ夏。青春の1ページを飾る瞬間である。


「よし、貴重な時間だ……めいいっぱい遊ばなくては損だよな」


「ユリス、その手に持っているボールは何ですか?」


 セシリアがユリスが抱えているボールに疑問を持つ。

 それを聞いたユリスは、フッと自慢げに胸を張った。


「これは、俺の領地の友達に聞いた遊びに欠かせないものでな……」


「ユリスくんの領地で流行ってる遊び……?」


「面白そうですね」


 ミラベルとティナが興味深そうにボールを見つめる。

 しかし、いくら見つめようとも所詮はただの大きいボールである。


「ふふっ、聞いて驚け……このボールを使う海の遊び、それは───」


「ビーチバレーって言うらしいわよ」


「ビーチバ────っておい、アナ!? 何で言っちゃうかなぁ!?」


 いい所を持っていかれたユリスがアナスタシアに詰め寄る。

 詰め寄るユリスの顔を手で離しながら、小さくため息をついた。


「そこまで溜めて言うことでもないでしょう? それに、うちの領地でもあったわよ普通に」


「マジで!?」


「あー、俺んとこの領地でもあったぜ?」


「マジですか!?」


 ガックリと肩を落とすユリス。

 せっかくドヤ顔を見せたのに、なんとも哀れなものである。

 自慢が自慢でなくなった瞬間は滑稽そのものであった。


「結局、どういう遊びなのでしょうか?」


「簡単よ。砂浜にボールを打ち上げて、落とさないように皆で回すの。落としたら負けで、誰かが落とすまで続ける。チームで別れたりして遊んだりもするわ」


「なるほど! とても面白そうですね!」


「結構面白いわよ? 私も1回だけやったことがあるのだけれど────」


「……そういや、俺とやったな、昔」


「その相手がユリスだったわね」


 懐かしいなー、と。ユリスとアナスタシアが二人で昔話に耽る。

 その光景を、セシリアは「ずるいです! 羨ましいです!」と言いながら頬を膨らませて見ていた。


「というわけで、単純なルールだから早速やるか」


 ♦♦♦


「いいか! 魔法、魔術は一切なしだぞ!」


 ユリスが念を押してボールを高々と上げる。

 魔法、魔術を使ってしまえば遊びにならないという配慮からであった。

 主に、遊びにならないのは運動音痴のセシリアなのだが。


「せっかくだから、何か勝負でもしない?」


 続き、アナスタシアがボールを打ち上げる。


「勝負……?」


 ミラベルも、見よう見真似でボールをセシリアの方に上げた。


「そう、落とした人が皆から命令を受けるっていうのはどう? 面白そうじゃないかしら?」


 アナスタシアの言葉を受けて、皆の眉がピクリと動く。

 セシリアだけは「あわわっ!」と、おぼつかない感じで何とかボールを打ち上げていた。


「ふふっ、それは面白そうですね」


 セシリアがふんわりと打ち上げたボールを、ティナが打ち上げる。

 そして、続け様にリカードも器用に上げていく。


「俺は賛成だぜ!」


「一人にかかる負担が多いような気はするが……まぁ、負けねぇだろうし構わねぇよ」


「私もいいかな〜、そっちの方が盛り上がるよね!」


「よかったわ。じゃあ、私が打ち上げてからがスタートね」


「えっ、何が始まるのでしょうか……?」


 落とさないことに一生懸命だったセシリアだけが、話についていけず戸惑う。

 しかし、他の面々はそれを華麗に無視。


(ユリス様と一日デートをできるかもしれませんね)


(ユリスと最近ゆっくりできてないし、ここで一つお願いでもしておきたいわ)


(こんな機会逃すわけにはいかねぇぜ! せっかく皆が水着なんだからな!)


(セシリアはまず危ないからしっかりフォローしないと……セシリアだけの集中砲火命令とか、何があるか分かったもんじゃねぇ)


 それぞれの内心は、罰ゲームのことだけ。

 一人は誰かを守るため、他の面々は己が願望を叶えるため。


 その瞳はまるで肉食獣────虎視眈々と、獲物を狙う狼のオーラを醸し出していた。


「な、何やら皆さんが凄い雰囲気になっちゃいました……」


 その瞳を見て、セシリアが一人たじろぐ。

 そして────


(……何にしようかなぁ)


 ミラベルもまた、一人気合いを入れていた。


(せっかくだから、ユリスくんと一緒に……ううん、それはこんな時にやっちゃいけないよね)


 己の願望を押し殺し、一旦冷静になる。

 その顔には、どこか悲壮感が浮かんでいるようにも見えた。


(でも、楽しいなぁ……)


 こうして皆で遊ぶことが。

 冗談やたわいもない会話とゲームをする時間は、何より心地よい。


(でも、自分で決めたことだもん……なんて、思っちゃダメ)


 そんなことを思いながら、ミラベルはアナスタシアがボールを打ち上げるのを見つめる。


「……」


 そんな様子を、ユリスは黙って見つめていた。

 何を思ってか? それは、ユリス自身もよく分かっていなかった。


 ただ少し……違和感を覚えてしまったから。

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