『魔法学園の大罪魔術師』の二巻、モンスター文庫様より好評発売です!!!


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 ────それから、1週間の月日が過ぎ去った。

 実家に帰っていたティナとリカードは学園に戻り、いつものメンバーが再び学園生活に戻ることになる。

 だが、それでも長期休暇が終わったわけではない。


 残すところあと二日。

 そのうち一日は、実家から帰ってきたばかりのティナやリカードが休むための期間として使い、最後の一日を────


「「海だァァァァァァァァァァ!!!」」


 男二人が、短パン一丁で叫び出す。

 最後の一日、その日のユリスの瞳に映るのは澄み渡った綺麗な青空に、キラキラと太陽を反射し輝かせる海であった。


 暑い日差しを掻き消すかのように浴びせられる潮風が心地よくユリスの白髪と、リカードの無駄に暑苦しい胸板を撫でる。


「ついにやって来た……海!」


「あぁ……やって来たなユリス!」


 男二人が感極まった表情で喜びを分かち合う。


「この広がる景色! そして女の子の水着! もう、最高だぜ!」


「といっても、俺達以外には誰もいないけどな」


 ユリスは周囲を見渡す。

 広がる浜辺にはリカードとユリスの姿しかなく、他に海を楽しむ人などどこにもいなかった。


「まぁ、ティナが所有している土地だし、いないのは当たり前なんだが……」


「なんか……少し寂しく感じるぜ」


 先程の元気はどこに行ったのか?

 小さく肩を落とすユリスとリカード。


 今回、海に行くにあたって色々と「どこに行くか?」ということをユリスは考えていた。

 この時期、暑さを紛らわせるために海に行きたいと考える人は多いはず。


 そこで、近くの海に行こうものなら人がいっぱいというのは予想がつく。

 人が多いということ自体は別に構わないが、あまり多すぎると皆で気持ちよく羽を伸ばせない恐れがある。


 かと言って、人がいなさそうな遠くの場所であればそれなりに時間もかかってしまい、遊ぶ時間自体が少なくなってしまう。


 そんな理由も含め、ユリスは発案者としてどこに行こうか考えていた。

 その時───


『あの、ユリス様……もしよろしければ、私が所有している土地に海がありますので、そちらにいたしますか?』


 そう、ティナに提案されたのだ。

 ティナの所有している土地にある海は学園からも近く、部外者の立ち入りを禁じているので人はいない。


 悠々と遊ぶのにはもってこい────だからこそ、ユリスはティナの提案を飲んだのだ。


「だが、他に人がいることなど微々たる問題……」


「俺達には本命がいるからな、ユリス!」


 ユリス達の求めるもの────それは、セシリア達の水着姿に他ならない。

 同年代……いや、同性の中でも群を抜いて美しい少女達の水着姿は何ものにも耐え難いもの。


 他の人達など、さしたる問題なのだ。


「しかしリカード……あんまりセシリア達をジロジロと見んなよ? せっかく同情して目隠しやめてやったんだから」


「お、おう……分かってるぜ」


 男なら、女の水着姿を見たいというその気持ちは理解できる。

 故に、婚約者の水着姿を拝む権利は与えてあげたユリス。ただし、行き過ぎた拝見は死に直結するが。


「お待たせしました!」


「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」


 そんなやり取りをしていると、岩場の影で着替えていたセシリア達がやって来た。

 もちろん、岩場を覗くという無粋なことはしなかった。色欲に忠実なはずなのに。


「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」


 二度目の雄叫び。

 そうなってしまうぐらいの光景が目の前に広がっていた。


「ど、どうしたのでしょうか……?」


「な、何かおかしいのかな?」


 唐突な雄叫びに、困惑した顔を見せるセシリアとミラベル。


「気にしなくてもいいわよ。ユリス達は、私達の水着姿を見て感極まってるのよ」


「殿方は女性の水着を喜ぶ傾向にあるみたいですからね」


 そして、大きなため息をつくアナスタシアと、冷静に気にしない様子のティナ。


「って言うより、あなたは一度私達の水着を見たでしょう?」


「ティナは初見だが? それに、一度見たからといって二度目の耐性がつくと思うな」


「どうしてそんなに誇らしげなのよ……」


 ユリスはチラチラと情けなくもティナを見る。


 ティナはセシリアと同じくパレオタイプの水着。

 しかし、決定的に違うのは、明るい色を出し可愛らしく見せているセシリアとは正反対なパープル柄だろう。


 それによって、抜群のプロポーションを誇るティナは色っぽく、落ち着いた雰囲気か艶美さを醸し出していた。


「(こりゃ、やべぇな……ユリス)」


「(あぁ……やばい。レベルが高すぎる)」


 鼻を押さえながら、個々の本音をぶっちゃける。

 押さえているのは、理性と引き換えに差し出された鼻血である。


「ユリスくん……顔洗ってくる?」


「顔洗ってくるための水が海しかないのだが……それを承知で言っているのか……っ?」


 海水で顔を洗う苦行も珍しいものだ。


 だが、ミラベルが不用意に顔を覗き込んでしまったことにより、白い柔肌が眼前に迫って余計にも鼻血を出してしまうユリス。

 本格的に顔が血で染まる前に海水でもいいから洗ってきた方がいいかもしれない。


「気遣いありがとう……ミラベル」


「ううん、気にしないで!」


 笑顔を浮かべて手を振るミラベル。

 そんな姿を見て、ユリスは少し前の出来事を思い出した。


『最近……ミラベルさんが何か悩んでいるようなんです』


(セシリアはあぁ言っていたが……)


 笑顔を浮かべるミラベルに、そんな様子はない。

 だが、セシリアはそれを気にしていたようで────


(気にしといた方がよさそうだな……)


 ミュゼの発言もあった。

 セシリアも、ミラベルを気にしている。


 ちゃんと気にしておかないと、と。

 ユリスは鼻血を拭いながら思った。



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