第107話:異世界から召喚された勇者

 ◇ ◇ ◇


 カスタール神聖国軍の司令部に、武装した集団がおり、その中央の椅子に座る人物がいた。

 その者は忙しなく部下達へと指示を出していた。

 この者こそ、今回の作戦の指揮を務める将軍、サジェス・ブルムートであった。


 現在、カスタール神聖国軍は、魔王軍の猛攻により次々とやられていた。

 そこへ一団が薄手となった左翼へと攻め込んでいた。

 耐えてはいるが、それも時間の問題だ。


「何をしている! 早く左翼を固めんか! このままでは突破され、陣形が崩れるぞ!」


 数の少ない魔王軍を相手に、カスタール神聖国軍は押されていた。

 サジェスは魔王軍が正面突破してくると考えていたが、こうして防備が薄い場所を狙われ、押されていた。

 しかも一人一人が支援魔法を使い強化されているも原因の一つだった。


「将軍、左翼がもう持ちそうにないと、連絡が!」

「チィッ!」


 悪態を吐くサジェスであったが、背後から声がかけられた。


「サジェス将軍、俺が出向いてもいいですか?」


 振り向くと、悲しみの表情を浮かべる、全身白銀の防具を身に纏った青年が立っていた。


「おぉ! 勇者・・殿!」


 カスタール神聖国は異世界から五人の勇者・・・・・の召喚に成功していたのだ。

 青年の名は天城誠あまぎ まこと


「もう見ていられません……!」


 天城は腰にある剣の柄にそっと触れた。

 触れたことで剣が青白く輝く。

 サジェスの表情が綻んだ。


「女神より授かりし神器、神剣クラウソラスを持つアマギ殿なら……!」

「はい。俺は女神の剣です。この手で邪悪なる魔族を退けて見せましょう」

「なんと頼もしい! 流石は勇者殿、是非頼みたい!」

「任せてください。では俺が敵の気を引いている間に軍を下がらせ、態勢を整えてください」

「うむ。では頼んだぞ。勇者殿!」

「はい、女神アルツェナ様に誓い、魔王軍を退けて見せましょう!」


 サジェスにそう告げた天城はその場を後にし、戦場へと向かっていった。

 その時、天城の口角が僅かに上がったが、それも気付かなかった。


 一人戦場に向かう天城は内心でほくそ笑む。


『ハハハッ、やっとだ、やっと人を殺せる! この時を楽しみにしていたんだよ! 四人ともビビりやがってよぉ。まあいい、この俺様が魔王軍を皆殺しにしてやる!』


 天城誠は、向こうの世界でごく普通の高校生として生活をしていた。

 そんな天城は幼いころ、生物が死ぬ瞬間に快感を覚え、隠れて色々な生物を殺してた。

 ある日、人を殺した。そう思ったが、現代日本という法で守られた国ではそう簡単にできなく、ストレスが溜まっていた。

 ついに覚悟を決めて決行しようとした前日、この世界に呼び出されたのだ。

 この世界の命が軽いことを知った天城は、優等生を演じつつ、中でその狂気なでの殺人衝動を抑え込んでいた。

 それが今、解き放たれようとしていた。



 ◇ ◇ ◇



 レイドが敵を倒したが、突如敵軍が退いていくことで足を止めた。

 リリスと指揮官も遅れて気付いたようだ。

 リリス達と合流したレイドは、何か知らないか訪ねる。


「何が起きている?」

「分からない。急に軍を退き始めた」

「レイド様にリリス様、いかがなさいますか?」

「それを決めるのは俺じゃない。お前の役目だ。俺はフランのために戦うだけだ」


 レイドの言葉に二人は何も言わなかった。

 そして指揮官が「アレは……」と声を上げた。


「どうした?」

「押していた左翼が、崩れ始めています」


 指を差した方向をレイドとリリスが見ると、魔族が次々と倒され、押されていた。

 よく見ると、白銀の鎧を着た一人の者が暴れているようだった。


「誰だ、アイツは?」

「分かりません。ですがここ、カスタール神聖国には聖騎士と呼ばれる、最強の騎士がいると聞きます。その人でしょうか?」

「聖騎士……奴らは教皇の護衛のはずだ。戦場に出て来るとは考えられない……だが一理あるか」


 今の魔族であの者に対抗できる者は、レイドかリリスくらいだろう。

 だが光属性を扱う彼らに、リリスの死霊魔術は相性が悪い。


「これじゃあ被害が大きくなる一方か。俺が出た方がいいか?」


 リリスと指揮官に確認を取る。


「光属性相手は無理。レイドが相手をする」

「まあ、そうなるよな」

「大丈夫ですか?」

「任せろ。俺が仕留めて――避けろッ!」


 レイドの咄嗟の言葉により、その場を飛び退くと、光の剣が地面に突き刺さった。

 そして先ほど暴れていた人物が降り立つと、レイド達に笑みを浮かべていた。


「なんだ、死んでないじゃん」


 聖騎士なら顔を見たことあるレイドだが、このような者は存在しなかった。


「レイ――ノワール、この人が聖騎士?」


 リリスの言葉に首を横に振って否定した。


「知らない」

「自己紹介が遅れた。俺様は天城誠――異世界から召喚された勇者だ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王軍の救世主(メサイア)~「聖剣を使わないのは勇者ではない」と言われ追放されたが魔王に惚れられ結婚しました。人間達は俺が敵に回ったのを後悔しているようですがもう遅いです~ WING/空埼 裕 @WINGZERO39

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ