第106話:開戦

 俺達は軍を進めて程なく、カスタール神聖国との中間地点にある街、ゼオッタ近郊へとやってきていた。


「あの街がゼオッタか」

「そう。これを抜けないとカスタール神聖国の首都にはたどり着けない」


 俺の言葉にリリスがそう回答した。

 リリスの言う通り、この街を抜けていかなければ首都を攻めることは出来ない。

 クイクイッと俺の袖が引っ張られたのでそちらを振り向く。


「レイドお兄ちゃん、街の方からたくさん人が来るよ?」

「え? それは本当か?」

「うん。みんな剣とか持ってる」


 魔王軍の侵攻に気付いた領主が軍を派遣したようだ。

 瞬時に防衛ラインが形成されていく。

 指揮官が俺とリリスの下に来て報告する。


「リリス様にレイド様、敵軍が防備を固めているようです。いかがないさいますか?」


 俺とリリスは顔を見合わせる。


「リリス、どうする?」

「ここで時間を取られたくない」

「同感だな。恐らく首都である神都にはもう伝令が向かっている。ここで時間を無駄に使えば、神都の防備が強固になるのは間違いない」

「では短期決着を付けますか?」

「そうしよう。ついでに俺が開幕の攻撃で敵の防衛を崩す。それを合図に一気に攻め込み、敵軍を片付けるとしよう」


 リリスと指揮官が頷く。

 両軍が対峙する。そんな緊迫した中、一人の者が軍の前に現れた。


「聞け、魔王軍よ! ここから先は我が国、カスタール神聖国である! 攻撃まで猶予をやる。即刻引き返すがいい!」


 恐らく軍を指揮する者か領主だろう。

 軍の数は三千にも満たない。

 魔王軍はすでに指揮官によって準備が出来ており、俺の攻撃ですぐに攻撃を開始する手はずになっている。

 リリスとミレーティアが俺を見る。


「レイド、アイツ何か言っている」

「お兄さん、何か言ってるよ?」

「アイツの目にはこの戦力差で勝てると思っているらしい。不思議だな」

「答えよ、魔王軍の指揮官よ!」


 俺は二人の頭をポンと軽く叩き、一歩前に踏み出した。


「私の名はノワール」

「ノワール、そうか。貴様が勇者を倒したという裏切り者だな?」

「先に裏切ったのは人間の方でしたが……まあいいでしょう」

「引き返せば見逃してやろう」


 上から目線な言葉に、魔王軍全体から怒りの波動が伝わってくる。

 落ち着けと言いたいところだが、分からなくもないのでそのままにしておく。

 あの敵軍の指揮官から小物臭がするも、この戦力差であのようなセリフが吐けるのだ。

 ある意味、大物なのかもしれない。


「退くつもりはありませんし、あなた達を見逃すつもりもありません」

「――なっ!」

「戦いに怖気づいているのですか? これは戦争ですよ?」

「魔法部隊、奴を焼き払え!」


 指令の命令に、敵魔法部隊が攻撃態勢となり、大小様々な火球が生成される。


「レイド!」

「レイドお兄さん!」

「レイド様!」


 リリスにミレーティア、指揮官が俺の名前を叫ぶ。

 逃げろと言っているのだろう。


「魔法部隊、直ちにレイド様を――」

「必要ない」


 俺は指揮官の言葉を手で制す。


「この程度どうってことない」

「ですが!」

「リリス、レイドがそういうなら大丈夫」

「……分かりました。すぐに攻撃ができるように準備をさせます」


 敵の指令が挙げていた手を振り下ろした。


「放てぇ!」


 無数の火球が俺に迫る仲、ゆっくりと腰に下げていた魔剣を引き抜き――一閃。

 一瞬の静寂のあと、全ての火球が切断され、空中で爆発した。

 これにはさすがの両軍も驚きを隠せないでいた。

 リリスやミレーティアはさほど驚きはしていなかったものの、指揮官は驚きのあまり固まっていた。

 そして敵の指令はと言うと……。


「こ、この数の魔法を、斬った、だと……!?」


 驚いている敵指令に俺は告げる。


「この程度ですか? ではこちらからも」


 俺は掲げた魔剣に魔力を注ぎ振り下ろした。

 振り下ろされた魔剣からは斬撃が放たれ、地面を抉りながら敵軍へと迫る。


「防御の魔法を展開――」


 敵指令の命令も最後まで告げられることなく、先ほど魔法を放った魔法部隊に直撃した。

 防壁を突き破り、魔法部隊が一瞬にして壊滅状態まで持っていかれた。

 そして指揮官が魔王軍に命令を下す。


「全軍、攻撃開始!」


 魔王軍は攻撃を開始するのだった。

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