結末

 私は実験室に置いてあったひもを手錠のようにしてユアの手首を何重にも縛った。

 もう一端を私の右手首につないでしまえば、もう逃げられない。

 脳震盪から立ち直るまでうつろな抵抗しかできなかったユアは、途中で抵抗を諦めてされるがままになっていた。そしていまは、私たちは実験室の床に背中合わせに座って、ぼんやり天井を見つめている。


「これから、どうなるのかな」


 ぽつりと、ユアは言った。聞いている様子ではなかった。ただ漠然と、目の前に横たわった未来をみつめているようだった。

 三十分ほど前に、私は実験室にある緊急用のSOSを押していた。なわを探しているときだ。私たちに何かが起きたことは、本社も他の基地も――それこそ月の裏側にも伝わっていることだろう。

 きっと間もなく、人が来る。私たちには報告義務が課せられている。なにが起きたか語らなくてはならない。

 なんて説明すればいいだろう?

  私は、実験室の扉の向こうにあるすべての原因のことを思って、不意に、笑ってしまっていた。


「どうしたのさ」

 こつん、と肘で脇腹を突いてくる。ユアは不機嫌そうな、けどどこか開き直った顔をしている。


「なにがあろうとさ、離す気はないな、って思っただけ」


 ユアはじっと私を見た。

 それから、大きな溜息をつくと、あっそ、と言った。


「ばーか」

「そっちこそ」

「……ふふ」

「はははっ……」

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さらば、楽園。 犬井作 @TsukuruInui

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