第十二話 政界の黒幕 その五

 敵性国家Kの隠れ蓑である上野のお一人様焼肉店。上野界隈では値段も安く、行列店のようだ。試しにランチで利用してみたが、カルビランチが美味しかったわ。店員も愛想が良く、特に問題はないみたい。問題は……店長かな。


 店長は渋谷で島田議員の愛人と一緒にいた例の男だった。にこやかな表情で「ありがとうございました~」と挨拶している姿からは先日の獣のような男の姿とはまるで合致しない。偽装は完璧ということだ。それでは最終幕といきましょうか。


◆◆◆


 深夜一時、お一人様焼肉店が閉店してから一時間が経過している。上司の尾崎一佐には既に報告を入れ、今は実働部隊と一緒に突入を待っている状況だ。例のごとく人払いと音遮断の魔法を使用しているため、お店周辺に人影は全くない。


「そろそろ行くわよ」

 私は実働部隊のリーダーに合図をして実力行使するため、お店の前に立つ。そして得意の風魔法を使い、お店のドアをバーンと弾き飛ばす。


「何だお前らは!」

 入口のドアを壊して店内に突入すると、店に残っていた店長が叫んだ。


「あなた、K国の軍人よね?」

「おまえは……何者だ!」

「残念だけどあなたに名乗る名前は無いわ」

 私は敵性国家Kの男にそう答える。


「くそっ。おい、この女を始末しろ!」

 男が叫ぶと奥から武器を持った軍人らしき男たちがわらわらと飛び出してくる。

 だが何発もの銃弾が飛んでくるが残像である私に当たることはない。


「グワーッ」

 武器を持った男たちをかまいたちで切り裂くと、残るは店長一人のみだ。


「やってくれたな、女! お前のせいで俺たちはもうおしまいだ‼」

 店長の男は私を憎々し気に見ながら、捨て台詞を吐いた。今回の失態で彼らは自国に戻れたとしても強制収容所送りか、下手をすれば銃殺刑だろう。だがそれは私の関知しないことだ。


「もうおしまいよ。潔く投降しなさい! 命だけは助けてあげる」

「ははははは、今更命など惜しくない。祖国に戻っても俺たちは用無しだ! こうなったらお前を道連れに全ての証拠を消すしかないな。あばよ!」

 私の最終勧告を無視して男はポケットに手を入れると何かのスイッチを押した。


「あっ!」

 次の瞬間、周囲が閃光に包まれる。どうやらビルの地下に自爆用の大量の爆薬を隠し持っていたようだ。しまった……。


 そしてお一人様焼肉店が入っていたビルは音もなく崩れ去った……。


◆◆◆


「ふーっ、やってくれたな。高野特尉……」

「はっ、誠に申し訳ございません」

「ビル一棟丸ごと崩壊か……隠蔽するのに苦労するぞ」

「……申し開きもございません」

 私が未だに魔女見習いな理由……それは魔法制御を精緻に出来ないためだ。


 魔法の行使範囲を絞った場合、ある程度は制御可能だ。だが今回のように自爆覚悟の捨て身攻撃をされた場合、自身の魔法を完全に制御することがかなり難しい。今回は最低限周囲の建物に影響が出ないよう、咄嗟に魔法で爆発をこのビルだけに留めるしかなかったが、お蔭で男たちは跡形もなくビルと共に全滅。証拠も一切残らなかった。


「結果的に敵性国家Kのスパイ網を一網打尽に出来たことはお手柄なのだが、もろ手を挙げて褒めることは出来ないな……。仕方がない、後の始末はこちらに任せろ」

「はっ」

 私は尾崎一佐に敬礼し、そのまま退室した。


☆☆☆


 その後の顛末だが、島田議員は文秋砲による愛人スキャンダルで議員辞職。国家安全保障会議(NSC)の機密情報が敵性国家Kに漏れていたことは完全に世間から秘匿された。


 悔しい……。あの時私に優秀な使い魔がいれば、あいつの捨て身の爆破を防ぐ手立てもあったと思う。


「あー、やっぱりももを私の使い魔にしたいなぁ……」

 今回の任務失敗で私は心底ももを使い魔にしたいと思うのだった。

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高野美咲は使い魔が欲しい あっくん @attsukun20010507

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