第4話:かつて平和だった村人たちへ

前回までのあらすじッッ

YOSHIKIの計画を未曾有の内に阻止したハードボイルド探偵・草薙凱くさなぎがいは、ついに最終決戦のステージがある、東京ドーム地下闘技場へと向かうッッ

そこに現れた謎の助っ人HIDEとは…どうなる第4話!!



はるか達が村で騒いでいる間、すっかりと日は傾いていた。村人たちと別れてからも、彼らの賑やかな声は畑道まで聴こえていた。

「すっかり日も落ちてしまったな」

アルテシアが持っていた荷物を代わりに抱え、夕焼けの景色に向かって問いかける。

「ええ、でも楽しかったですわ。明日の収穫祭も、勿論行きますよね?」

彼の隣を歩いているアルテシアの白い長髪は、夕焼けの色が差してうっすらと朱色の輪郭を描いている。

「アルさえよければ行きたい。また、あのトウモロコシも食べたいしな」

そう告げた彼の顔に、もう陰は無かった。アルテシアは悠を連れてきて良かったと、心の内で胸をなで下ろした。


悠は館に戻った後、アルテシアに晩餐に出ないかと誘われた。友人としてもてなしたいと言われたが、流石に気が引けた。

「ハルカ、遠慮はいらないのですよ?お父様にも、改めて貴方を紹介したいですわ。」

「いや、気持ちだけ受け取っておくよ。元々俺は招かれざる客で…」

彼が続けて喋ろうとした時、彼らの前に初老ぐらいの男性が現れた。アルテシアと同じ、混じりのない白髪の男性だ。彼女と似通った雰囲気から、直ぐにアルテシアの父親だと分かった。

「そうだアルテシア。彼は招かれざる客、そしてお前は嫁入り前だ。正式な場で、良からぬ噂をされては困る」

彼の眼力は、まるで獲物突き刺すような鋭さだった。人を治める人間だけあって、強い意志の持ち主だと分かる。

「ですがお父様、彼は私の客人です。もてなさいのは貴族の名折れですわ」

彼女の口から出た言葉は、意外な事実だった。この土地で使われてる言葉は、訛りは強いものの英語に類似した物だ。欧州や絶対君主制国以外で貴族制の話を聞くことがない。

後で聞く必要があると、悠は喉から出かかった言葉を飲み込んだ。

「とにかく許可出来ない。それと客人、さっき言った通り娘は嫁入り前だ。あまりちょっかいは出さないでくれ」

「ええ、分かってます…」

家の事情に突っ込むなど、返って彼女に迷惑だ。悠は適当な相槌をうつしか出来なかった。




結局、アルテシアまで晩餐には参加しなかった。気が晴れぬ時は決まって屋根裏に篭る。埃臭い部屋を換気するため、開け放った窓から涼しい夜風が吹き抜けた。

「こんな所にいたのか」

彼女を心配して、悠も屋根裏へと上がってきた。

「ハルカ…ごめんなさい」

「こればかりは仕方ない。誰も悪くないんだ」

そう、この件に関して誰も悪くないのだ。きっと何処にも吐き出させず、自分のように泥が詰まっているのではと、悠は心配していた。

「それと腹、空いてると思ってな。差し入れ」

村での騒ぎで食べず終いだったバスケットを差し出した。

「ふふ、結局食べていませんでしたものね」

今日のことを思い出して、思わずアルテシアの顔が緩む。代わり映えのしない日常が嫌だった彼女にとって、これほど有意義な日は無かったからだろう。


だが代わり映えのしない日常は、悲鳴と轟音と共に崩れた。村の方から爆音が聴こえる。悠達は驚いて窓の縁に身を乗り出す。

轟々と爆煙を巻き上げながら、炎は夜の中一段と煌めくのだった…




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次回は29日に投下予定です。

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