笑いながら泣ける。圧巻のダークファンタジー

 一つの物語の中で、今回は笑えるパート、今回は泣かせるパート……という感じで構成されている作品は多いと思うのです。
 本筋はギャグ、だけどたまに泣かせるお話もあるんだよ、みたいな。

 しかし、しかしです。

 この物語の何が凄いかって……
 1話の、一つのエピソードの中に、同時にそれを入れてるとこなんです。
絶対このシリアスシーンにそれは入ってこないよね?!というところに笑いが織り込まれている。しかも結構濃いヤツです。
 泣かすとこで本気で泣かされるのに、同時に笑わされるのです。

 サラッと、とかしれっと、とかそういう生易しい感じじゃありません。
 ドスンと入ってます。電車の中で読んでいたら、周囲の視線を一瞬で集められること請け合いのヤツです。
 泣かせるシーンで思わず読者が吹き出しちゃうような要素を入れられる時点で、どれだけの力量がある作者様なのかわかりますよね。
 じわっと泣きそうなとこで突然笑わされ、その吹き出しちゃった直後にまた泣かされるんですよ? ドバァって。
 ……何を言っているか分からないかもしれませんが、本当にそんな感じです。

 それに、です。
 この作品は『ダークファンタジー』なのです。

 サブタイトルに惑わされちゃダメです。骨太の、すごい重さのダークファンタジーなんです。
 笑いにつられて読み進めるうちに、物語の根幹であるものの姿が見え始めてきます。パワフルに笑わされながらも、胸にグサリグサリと突き刺さってくる物語の重い背景、世界情勢、人の思惑。それから想い。

 ……そもそもですよ。

 ダークファンタジーなのに笑わされるってどういうことなのかと。
 ダークファンタジーっていったら、ドロッと重たくて、陰鬱で、救いがない世界で人々が苦しみ、悲しみ、のたうち回る物語ですよね。
 人もたくさん死んじゃう。
 悲しみに溢れ、人の醜さや悲しさに悲嘆する。そんなものじゃないですか。
 間違いなく、この物語にもそういう要素はふんだんに盛り込まれているのです。
 それなのに。ああ、それなのに。

 なぜ笑わされちゃうんだ。そのシーンで。

 無論それだけじゃなくて、本当に感情を揺り動かされ、涙が溢れてしまう、胸が痛くなるお話もたくさんあります。
 つまりはさじ加減です。
 絶妙です。見事です。

 キャラクターたちがそれぞれ抱えているものも凄まじくて、最初は「なんだこいつは」と思うキャラが実は……だったり。
 作品紹介にあるとおり、「主人公は」暴力を一切使わず、誰も殺しません。
 舞台はダークファンタジーな世界。人の命だって軽いんです。そんな世界で、誰も殺さず、傷ついていれば誰でも癒やす、優しく思いやりがある主人公・グリムナ。その姿が本当に格好いい。どんなに傷ついても、傷つけられても、前へ前へと進み続ける姿は、「なぜ、そこまで」と思うほどです。
 彼だけではなく、ヒッテやラーラマリア、ブロッズ、ネクロゴブリン……たくさんの魅力的ながら一癖も二癖もあるキャラクターが登場します。

 さてさて。
 440話もの長編を一気読みに一気読みを重ねてギリギリ前日に最新話まで追い着いた私が、自信を持っておすすめします。

 いろんな思いが、胸をかき回してくれること間違いなしです。
 ぜひ、読んでみてください!

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