第3話 昔からの友達

 ‘‘会いたくて 会いたくて この胸のささやきが’’


酔っているからか、音痴が強まるのがちょっと恥ずかしい。


でも、うっすらと聞こえたハモリで音程のラインがわかるようになってきた。


「オリベ、一緒に歌おうよ」


間奏中に笑顔を向けて言うと、ええねぇと優しく微笑み返してくれた。



 「次、これにする?」


「こっちも好きやなぁ」


それからくっつきながら曲を相談して、


「ああ、音程忘れた!」

「だいじょうぶ、おれがリードしたる」


歌う時は恋人繋ぎをしながら左右に揺れてデュエットする僕ら。


「うめしゅ、うまい?」


「ほぼ、ジュース」


「ちぃとのましてや? おれのやるから」


昔からの友達のようにお互いのジョッキを飲み合い、食べ物はアーンし合う。


何年振りかわからないほどはしゃいでしまったけど……1回死んだからいいよね?



  「おれのピアスあげるからさぁ、アナあけようぜぇ」


歌い終わった後、頬にキスをするようになったオリベからの誘いに思わず乗る僕。


「オリベとお揃いなんてうれしいよ」


心から思ったまま言うと、白い歯を見せて笑うオリベに安心しかない。


「そういうとこ、好きやわぁ」


だから、ちょっとトーンが低い声で言ったことも気にしなかったんだ。



 左頬に唇を押し付けた後に舌を出したオリベは首へ流れていってから上へ滑らせ、耳に噛み付く。


痛みはあったけど、すぐに気持ち良さに変わった。


それはオリベがチュッチュッと血を吸い始めたから。


「ちょっと……くすぐったいよ」


力が抜けて、ソファの背にもたれてもやめてくれない。


 「おうごんのちってすごいわぁ……めっちゃおいしい」


「吸血鬼みたいなこと言わないでよ」


ごめんてぇと甘えたように言いながらも今度はペロペロと舐め出すオリベ。


「ヤバイ、すいつくしてしまいたいんやけど」


吸血鬼になりきっているオリベの言葉に、それだけ僕に心を許してくれているのだと思うと、嬉しくて涙が出そうになった。


「そこまで言うならやってみてよ」


もうどうにでもして……オリベ。



 「じゃあ、おれのめをみて?」


優しい声色で言うオリベに僕は素直に従う。


あどけない顔なのが不思議に感じたけど、それはサングラスがないからだとすぐにわかった。


小ぶりな一重で少し垂れた瞳に釘付けになった僕は触れたくなって手を伸ばそうとしたのに、全然身体が動かない。


「オ、リ……べ?」


口を少しだけ開くだけでも鉛のように重い。


「ごめんなぁ、ほんまにたのしかったんやけど……これが本題やから」


妖しく口角を上げるオリベの髪がいつの間にか数万匹の白蛇に変わっていた。


「じゃあ、えんりょなく……いただきま〜す」


その言葉の数秒後、僕の頭から足先まで布をすり抜けて噛み付いてきた。


ゴクッゴクッ


頭は真っ白になる。


ゴクッゴクッ


胸やお腹は動脈を噛まれる。


とにかく全身の吸われる音に囲まれて、変な気持ちが快感に変わって身体が熱くなる。



 「ハァ、ハアッ……アッ、アッアッ」


裏切られたはずなのに、なぜかものすごい達成感を味わう僕。


なぜなら、朦朧としていく意識の中で、オリベの髪色が若々しい赤に変わっていっているのがわかったから。


「アハッ、いきかえるわぁ……サイコー」


ヤバい、もっとかっこよくなってるよ。


僕は気が狂ったのか、首に噛み付いていた白蛇を掴み、口へ突っ込んだ。


ジュルジュルジュル


白蛇は僕の舌に絡みつき、歯列をなぞる。


「ありがとう、オリベ」


僕はオリベの中に溶けるように静かに目を閉じた。

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