第8話 特別な処置

オリベと出会ってから6週間になる今日はバーはお休み……それはオリベがいないから。


「今日は俺とシノブの大切な日になるから、準備しといてな?」


オリベは僕の頭を撫で、額にキスをしてから"仕事"へ行ってしまった。


「というこっちゃ。せやから、今日はオレとつきっきりや!」


ガシッと肩を捕まれ、部屋に連行されるからびくびくしかしていない僕。


だから、強ばった顔をラシャさんに向けると、噴き出して笑われた。


「大丈夫やで? オレは無理矢理吸う趣味ないからな」


つぶらな瞳を煌めかせて、八重歯が出るくらいに思い切り笑うラシャさんの顔に今度はどこか母親のような安心感を僕は抱く。


「半分人間やから血は基本に必要ないんやわ。それにオレ、受けやし」


同じ立場ってわかったからホッと胸を撫で下ろしたんだ。


ラシャさんの手ほどきの元で、僕は受け入れる準備をして、実習着を着る。


その相手はアサギさんでもスオウさんでも、コハクさんでもない……オリベだって覚悟を決めた。



「ごめん……待たせてもうたな」


みんながいるプレイルームでラシャさんに守られたまままの僕は声の方へ身体を向ける。


そこには、闇に染まったような黒い髪に裸眼、血が飛び散る白いパーカーを着たオリベが困った顔をして立っていた。


「はぁ~めっちゃ重いわぁ」


はよ持ってってとソファに座っていたスオウの前に保冷ボックスを置くオリベ。


「コハク、アサギ……食いかすでええなら玄関にあるで」


その言葉に2人とも目をギラギラさせて、歪んだ笑みを浮かべて走っていった。


 「悪い菌にまみれて風邪引きそうなんで……消毒してや、看護師さん」


妖しく笑うオリベに誘われるように、僕はオリベの胸に飛び込む。


「特別な処置が必要なので、オリベの部屋に行きましょう」


僕は誘いに乗るように、静かに囁いた。


「は〜い、お願いします」


明るい声で言ったオリベは僕をお姫様だっこをし、キスをしながらプレイルームを出た。



 唇を食むようなキスを続けていたのに、牙で強く僕の唇を噛んだオリベはジュッと滲み出る血を吸う。


「果実を熟れさすには急いだらあかんねん。じっくり、ゆっくり育てな、な?」


出なくなると、位置を少しズラし、また噛んで吸うのを繰り返す。


「ハッぁ……アぁン、アアッ」


痛みが嫌悪より快楽に感じる。


「キツく噛み付かんように優しく牙を立てて、蜜だけを吸い出せば……甘美な香りが芳しく漂うんやわ」



 オリベの部屋に着き、ゆっくりとベッドに下ろすと、オリベが唇を離した。


僕は力なく身体をシーツに委ねるしかない。


「これで、熟れたイチジクの出来上がり……たまらんなぁ」


白い糸に赤い血が絡み付いていて、繋がった先のオリベの瞳も三日月になっている口元も色っぽくて、僕はドクンと胸が高鳴った。

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