第9話 綺麗な君が喰らう

 「優しい、吸血鬼……に熟らされ、たんだよ」


僕は息絶え絶えになりながら、なんとか言葉を紡ぐ。


「優しい? 誰がぁ?」


「優しくて綺麗なオリベに穢れた僕が救われたんだ」


理不尽な言葉や暴力で自分を滅ぼそうとしたのを止めてくれたのが、君……オリベじゃないか。


それなのに、オリベは意地悪な笑みを浮かべながらポケットからなにやら紙を出す。


「俺、さっきまで人殺ししてきたんやけどさ……証拠持ってきてもうたわ」


ニヒヒと紙を掴んで僕に見せた数秒後、突如炎に変わる。


ふぅと息を吐いた途端、甲高い叫び声と共に消え去ってしまった。


でも、なんて書いてあったかを理解できた。


"橘由和"と。



 「オリベ、まさか……」


僕は嬉しいような苦しいような複雑な気持ちになる。


「俺はただ、腐った政治家を排除しただけやで?」


でもこれでと僕の耳元へ顔を寄せてきたオリベ。


「心置きなくお前を喰える」


もう、どうにでもして……オリベ。



 「オリベが欲しい」


僕はオリベの小さな瞳に手を伸ばした。


あの時は出来なかったけど、今回はオリベが顔を近づけてくれたからちゃんと触れられた。


「ごめんやけど……我慢できひんかもしれへん」


弱々しく言いながら、紺色のボタンを1つずつ開けていくオリベ。


「いいよ、僕は全部受け入れるから」


「お前はほんま……」


オリベは満面の笑みを浮かべて、僕の乳首に吸い付いた。



 「なぁ、アダムとイヴって知ってる?」


「エデンの園のやつ?」


「よう知っとるな……やっぱり賢いわ」


オリベはいつものように僕を肯定してくれた。


「俺はメデューサやから蛇やけど、そう考えたら、シノブは禁断の実になってまうけどさ……俺、アダムになりたいねん」


なぜか苦しそうに言うから、僕はオリベの髪を撫でる。


「僕は最初からそう思ってるよ……その代わり、僕はイヴだから」


オリベは静かにおんと言ってまた乳首を舐めるから、僕はうんと返した。


蛇はコハクだろうな……なんて。


きつい冗談を頭に浮かべたら、楽しそうにズボンの前チャックを下ろし、僕のものをゆるゆると扱いてくれる。


「気持ちええ?」


「キも……ちい、イよ」


荒い息を吐きながらなんとか言うと、ギュッと握って意地悪をするオリベ。


「楽しみはこれからや。焦らんと、じっくり、ゆっくり……な?」


不敵に笑うオリベに僕は敵うはずなく、うなずくしかなかった。


 「邪魔くさいわ……もういらんやろ?」


なんて言っているうちにオリベは実習着を爪で引っ掻き、破りとる。


「これも。気持ち悪くて敵わんし」


ビリビリと裂いていくパーカーから現れたのは引き締まった胸筋と腹筋。


ますます、カッコいいよ。



 「穴、ほぐしてあるから……挿れて」


僕は桃のようなお尻をオリベに向ける。


もちろん、挿れやすいように人差し指と中指で穴を広げながら。


「こんな小さいとこに入るん? イリュージョンやなぁ」


呑気に言いながら人差し指を突っ込んできてグリグリとこじ開けるオリベ。


裸のオリベは細マッチョなのに、ペニスはムキムキと隆起していて大きい。


だから、軽く入れただけで肉壁が大きく擦れて、気持ち良さが身体に駆け巡る。


「アアアッ……ア、アッ」


もっともっとと欲しくて腰が揺れたんだ。



「俺の身体って、全部お前でできてんねんなぁ」


朦朧とした意識の中ではっきりと聞こえた。


そして、軽々と体勢をひっくり返される。


「俺のこの姿好きやんな? なんぼでも見てええよ」


薄目で見ると、かすかに赤みを帯びた髪が数億匹の蛇に変わっていた。


「俺には……シノブだけやで」


そう愛おしそうに言った後、蛇達が僕の身体の隅々まで襲いかかってくる。


ゴクッゴクッという音がもはや心地いいんだ。



イチジクはオリベではなく、僕だった。


熟れたイチジクは赤い花を中で咲かせる……それがオリベの赤い髪へと変えていく。



「シノブ……お前はめちゃくちゃ綺麗やで」


イくとわかった瞬間、2回つつくようなキスをするオリベ。


「穢れとる俺を浄化しておくれ」


優しく言ったオリベは舌を絡めてきたんだ。


もちろん、僕も負けないように絡みつく。



 もう穢れなんか、どこにもないくらい。


穢れた僕も


綺麗な君も


熟れたイチジクのように。


いやらしい音を上でも下でも立てながら、僕らは1つなるように溶け合ったんだ。


きっと明日には


復讐の鬼はアダムに、自殺志願者はイヴへと神様は変えてくれると信じて。


    <完>

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穢れた僕を綺麗な君が喰らう 斎藤遥 @haruyo-koi

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