第2話 詩仁
「シノブ、えらいわぁ……よう頑張った」
左耳には3つ、右耳には2つ付いた金色の太いフープピアスを上下に揺らして、今までのことを聞いてくれた彼……オリベ。
不良の装いをしているのに、高い声とふわふわな口調だからなんか癒される。
「もうこれからは我慢せんでええから……大丈夫、俺がそばにおるよ」
小柄なのに、大きな手が僕の頭をポンポンと撫でてくれたから、僕は安心したんだ。
僕が話すのを躊躇うくらいイヤなことだから、オリベもイヤな思いをしたはず。
「そう言うやつがおるんや……まぁ、俺は例外やけど」
オリベは穏やかな笑みを僕にずっと向けてくれたんだ。
シノブというのは、僕の新たな名前。
言偏に寺、仁義を持ちますようにで
でも、1回死んでんねんからってハハハと棒読みで笑うオリベをみたら、僕も久しぶりに笑った。
そして、僕の手を程良い強さで握ってるオリベは軽く前後に振っている。
ヒンヤリ冷たいけれど、8月特有の蒸し暑さを弱めてくれるからとても心地いい。
僕はずっと看護師になるために勉強ばかりしてきたから、恋愛経験はゼロ。
そうなると、19歳のくせに童貞だということがバレるのが恥ずかしい。
早くカラオケ店に着いて欲しいような、もう少しこのままでいたいような……どっちにしても心臓が破裂しそうだ。
この緊張感、いやじゃないな。
"夢ならば どれほど 良かったでしょう"
人気過ぎて誰もが1度挑戦しては挫折する曲をトップバッターで余裕たっぷりに歌い始めたオリベ。
それだけで驚いたのに、次は懐かしいトイレの女神の歌を優しく撫でるように歌うギャップに酔いしれる。
もっと聴きたくなった僕は歌謡曲の女性歌手の歌をどんどん入れていく。
スイートピー、コスモスと、1人の女性の人生ドラマを見てる感覚に陥り、幸せだと思った。
「おればっかうたってるやんかぁ、シノブもうたわなあかんでぇ」
オールする勢いでオードブルだけじゃなくてお酒も頼んだから、緑茶割りを2杯飲んだオリベはふわふわ度が増している。
「僕下手くそらから、いいろ!」
元々弱いくせにノリで梅酒をグビグビ飲んだ僕は敬語も取れた上、滑舌が悪くなってきた。
19歳だけど、あと1年だからと練習のために何度か飲んだことがあるんだ。
でも、全然飲めないから、オリベに勧められた梅酒にした。
「1曲だけでええから、なぁ?」
「ほんあにい〜きょうく、だけやからな!」
人見知りなはずなのに、オリベの人柄に惹かれて心を開いた僕は移った関西弁で宣言してから十八番を入れ、千鳥足で立ち上がる。
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