検証結果報告③

 二〇××年〇八月二十四日


 ——被験体コード“F8ABA6”に関する進捗——


 六本木における戦闘において、ロストアイテム『VH』の起動を確認。


 起動に当たり、精神反応における脳波から想定値の三倍以上の出力を検知。


 また、『VH』からも同様に精神反応の検出を確認。


 なお、被験体“F8ABA6”のその身体能力は、被験体“6C676E”の数値を遥かに凌駕。


 さらに『VH』による攻撃を受けた被験体“6C676E”は消滅。旧データ及び事前想定通りの結果を確認。


 今回の取得データを基に、被験体“FFD700”の更なる強化プランの策定を開始。


 ◇


■???視点


「……これが今回の検証結果、か……」

「はい」


 都内某所にあるホテルの一室。


 ベッドに腰掛けながら“並井機関”の技術班による検証結果を見て、彼は眉をしかめる。


「ふむ……それで、君はこの結果をどう思う?」

「はい。被験体“FFD700”は第三段階まで進化しておりますが、それでも被験体“F8ABA6”には遠く及ばないでしょう」


 私は彼に、ありのままの見解を述べる。


「そうか……となれば、やはり最終目標である第四段階まで進化を引き上げるしかない、か……」

「被験体“F8ABA6”に並び、そして超えるにはそうするしかないかと」

「分かった。では、被験体“FFD700”の第四段階への進化を促すため、被験体“F8ABA6”との戦闘準備をしておいてくれ」

「かしこまりました」


 指示を受けた私は、恭しく一礼した。


「うむ、よろしく頼むよ。怪人が進化するために必要な『DS細胞』の活性化には、感情の変化によって生じる精神感応が必要だからね」

「はい」

「その点、被験体“FFD700”は負の感情に関して類まれなる才能を有しているよ。あれだけの負の感情を抱えていたら、常人であれば既に精神が崩壊し、廃人と化しているところだからね」

「おっしゃる通りです」

「そうだ、君はくれぐれも気をつけるんだよ? 彼女の負の感情に引きずられ、君にまで何かあっては大変だからね」

「っ! お気遣いありがとうございます!」


 思わぬ彼のねぎらいの言葉に、私の心が激しく踊る。


 嬉しい! 嬉しい! 嬉しい!

 ああ……! こうやって会話をするだけでも天にも昇る心地なのに、その上このようなお言葉をいただけるとは!


 ですが、欲張りな私めは、それ以上に彼を求めてしまう……。


 そのために、私はこんな余計なことまで彼に話してしまう。


「それと……“彼”の処遇はあれでよろしかったのでしょうか」

「ん? ……ああ、“彼”に関してはそれでいい。所詮彼は、自己顕示欲と不老不死の幻想に憑りつかれた、憐れな男なのだから」

「その通りです。出しゃばってしまい、申し訳ありません」

「いや、構わない。それでこそ、私の優秀な部下だよ」

「ありがとうございます」


 ふふ……ふふふ……また彼からお言葉をいただいてしまいました。


 とはいえ、今日の主な目的は検証結果の報告と被験体“FFD700”の今後の処遇に関する相談。

 これ以上のつながりを求めるのは、度が過ぎてしまいます。


 今日のところはこれまで……。


「では、今日のところは終わりとしよう。ご苦労だった」


 そう言うと、彼はベッドから立ち上がる。


 ……やはり、今日はこれまで、ですね……。


 ところが。


「っ!」

「フフ……仕事は終わりだが、ここからはプライベートの時間だ」


 彼は私を半ば強引に抱き寄せると、耳元で囁いた。


 まさか……まさかまさかまさか!

 今日もご寵愛をいただけるのですか!


「さあ、顔を上げて……」

「はい……は……ちゅ……ちゅぷ……」


 彼は私の口唇に舌を強引に滑らせる。

 私も、その舌の動きに合わせ、求めるように舌を絡めた。


「ちゅく……は……」

「フフ、さあ……今夜も愉しませてくれ、松永くん……いや、怪人グリフォニア」

「は……ん……あ、ああ……!」


 そして私は、彼の腕の中で朝まで何度も果て続けた。

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戦隊ヒロインのこよみさんは、いつもごはんを邪魔される! ~僕の料理は、彼女の心と胃袋をつかみます!~ サンボン @sammbon

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