怪人グリフォニア①

■カネショウ視点


「アアアアア! 何で!? 何でボクの指が回復しないんだよ!」


 ボクは本拠地のラボで治療を行うけど、ヴレイピンクにやられた左手の薬指と小指が元に戻らない。


 今までこんなことは一度もなかったのに……!


「どうして! 『DS細胞』は“スペア”さえあればすぐに元通りになるようにプログラミングされてるはずなんだ! たかがあんなランスなんかで攻撃されたくらいで、なんでこんなことになっちゃうんだよおおおおお!」

「モウ、チョット落ち着きなさいよ」


 ボクがこんな目に遭ってるっていうのに、アリスは落ち着き払いながら、呆れたように窘めてくる。


「ウルサイ! 大体こんなこと、“あの御方”は言ってなかったじゃないか! クソ! クソクソクソ!」


 どうにも怒りが収まらず、ボクは床を思い切り踏みつける。

 何度も! 何度も! 何度も!


「絶対に……絶対にあのヴレイピンクを血祭りにあげないと気が済まないよ……!」

「アラアラ、じゃあ珍しくアンタが闘うの?」


 アリスが小馬鹿にするようにボクを見つめる。


「ボクが? まさか! 闘うのはもちろん君じゃないか!」

「ナニヨソレ、だったらあのまま私に闘わせてくれたらよかったのに」


 アリスは呆れ、肩を竦めた。


「それこそ何を言ってるのさ! ヴレイピンクの能力が分からないまま挑むだなんて、バカのすることだよ! だから君はバカなんだよ!」

「何ですって! いい加減に……ハッ!?」


 ケンカを吹っ掛けてきそうになったアリスに、ボクは左手を向ける。


「……あまり調子に乗るなよ? オマエなんか、ボクの気分でいつでも壊せるんだからね?」

「……チッ! 分かってるわよ……」

「フン! しかし、ああ忌々しい! ……だけど、まずはヴレイピンクの能力の分析を……」

「その必要はありません」


 突然、背後から女の声が聞こえ、ボク達は慌てて振り返る。


「……グリフォニア……」


 そこにいたのは、“ファースト”の一人、怪人グリフォニアだった。


「“あの御方”からの指示です。対ヴレイピンク=ヴァルキュリアについて、この私が陣頭指揮を執ることになりました」

「はあ!? な、何を言ってるんだい!? “あの御方”がこのボクを外すというのかい!?」


 グリフォニアから告げられた“あの御方”の指示に、ボクは思わずうろたえてしまった。


 だって、“あの御方”はボクこそがこのダークスフィアのトップだと……あの時そうハッキリと言ったんだ! なのに!


「そんなバカなこと、あるはずがない! “あの御方”がそんなこと言うはずが……!」

「口を慎んでください。とにかく、異論は認めません」

「く……!」


 ボクは悔しさのあまり唇を思い切り強く噛み締め、切れて流れ出る血も気にせずにグリフォニアを睨みつけた。


「フウ……どうやら勘違いしているようですので言っておきますが、“あの御方”からは『カネショウは今まで通りダークスフィアのトップとして今まで以上に励め』とのご命令です。私はあくまで、対ヴレイピンク=ヴァルキュリアに関してのみ指揮権を持ちますので」

「あ、そ、そう……それならいいんだ……」


 “あの御方”に見捨てられたわけじゃなかった……。


 ボクはグリフォニアの言葉を聞き、心の底から安堵した。


「そういうことですので、怪人カネショウ及び怪人アリス=ヒュブリスは、私の指示に従い、打倒ヴレイピンク=ヴァルキュリアに尽力してください」

「分かったよ……」

「ま、私はアイツをギタギタにして、耕太を私のオモチャにできれば何でもいいんだけど?」


 とりあえず、ボク達はグリフォニアの言葉に従うことにした。


「ああ、そうそう。例の怪人スオクインの件ですが」

「? スオクインって、連中の手に捕まったあのスオクインのこと?」

「はい。今はヴレイバイオレットと名を変え、寝返ったスオクインについて、“あの御方”から必ず粛清するように、とのご命令です」


 ボクはグリフォニアの言葉に思わず絶句する。


 なんで!? スオクインは“あの御方”にとって大切じゃなかったの!?


「グ、グリフォニア……そ、その話は……」

「なお、スオクインの粛清方法はカネショウに一任するとのことです。話は以上です」


 ボクの話を最後まで聞かないまま会話をピシャリと打ち切り、グリフォニアは踵を返して立ち去った。


「い、一体“あの御方”はどうしちゃったんだ……」

「ねえねえ、そういえばさあ。その“あの御方”って誰なの?」


 頭を抱えるボクに、アリスが気の抜けた声で“あの御方”について尋ねてきた。


「……君も、いずれ知るようになるよ」


 ボクはその一言だけ言い残し、フラフラと部屋を出た。

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