物部斉清(拝み屋の少年 中学生)

 おんちゃん、喧嘩売ってるん?俺、一切話したくないんじゃけど。

 ふーん、オカンの紹介か。まあええわ。聞かしてやるけどよ、口挟むなよ。


 あの子、可哀想な子やき。

 なにがバケモノや。あれを作り出したんはお前らやって言いたかったわ。

 あの子さあ、もう自分が何かも分からんようになっちゅう。

 ほんとにさ、ぜってえ笑ったり茶化したりすんなよ。なあ。

 あのさあ、ずっと昔にさ、いや知らんわ。勉強できんもん俺。江戸時代?とかより前じゃねえん?とにかくよ、そういう海からくる生き物がおったんだわ。そう、あの子に似ててさ、ずっと若くて美人。まあ今みたいにリンリカン?とかそういうのないからよ、まあ、そういう、慰み者っていうん?そういうふうになってよ。村中の。でさ、誰の子ぉかも分からん子供産んでよ。交尾した相手の男は死ぬわけよ。

 さあ、知らん。俺勉強できねって言ったじゃろが。

 まあ、勝手な話なんやけど、そんな女も、そんな女が産んだ子供も殺してしまおうって話になってよ。皆で殺したんやて。殺した日はお祭りになっとるよ。絵も飾られとるから、見てきたらええがやないね。

 その血祭りに参加した野郎の娘がさ、血ぃ浴びたんやて。その子、そっから成長せんが。

 おうよ、それがあの子よ。多分な。

 あの子よぉ、海の生き物じゃないんよ。ふつうの人間なんよ。

 けんどよ、なんでか分からんが、真似とるんよ。

 好きになった男の子供を産んで、その男を殺す、そういうシステムっていうんかな。それを繰り返しとるん。海の生き物でもないのに。

 海の生き物はさ、交尾した相手がな、スカスカになって死ぬらしいで。そういう構造なんやが。そういうふうにジジイから聞いたわ。

 でもな、あの子は違うわ。人間やから。そういうシステムやと思い込んどるんよ。だから殺す。そういうもんだと思っとる。

 いやあ、あのおっさんたちは死んだらええし死んでいい気味やと思ったけど?関係はないが。ムカつくけどな。そういうシステムやから、ひどいことしたとか、そんなんは関係ないが。

 こっちのもんは全然もう怖がって相手にせんけどな。旅行者とか多い時期には気をつけんとこういうことが起こるんよ。

 そら、美人やからね。分かっとるけど、俺はなるべく自由にさせてやりたかったんよ。あの子が殺す前によ、あの子を止めて、ずっとうまくやってきたんよ。俺のジジイもオカンもな。

 でもよ、もういい加減可哀想やが。

 何べんこんな目に合わさんといかんのよ。

 あの子、ほんまに毎回好きになって、尽くして尽くして、捨てられるんよ。それだけの人生なんよ。なんでそんなことずっとせんといかんのよ。

 だからよ、終わらせてやったわ。俺にしかできん事やき。

 はあ?なんでオマエにそんなん言われないかんが。ああ、あれ見たんか。

 いちいちうるせえわ。じゃあオマエがなんかできたんか?ドザエモン見てビビっただけやろ。クソが。どんな綺麗でも人間溺れたらああなるわ。クソ。思い出したくねえ。

 海の生き物は海に帰れって言ったんよ。俺はそういうことができるから。

 そしたらあの子溺れてしまったんよ。

 人間やから。可哀想な子やき。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある美しい少女の話 芦花公園 @kinokoinusuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る