頭を使うホラー映画を観てみよう!〜『哭声/コクソン』〜
五回目になるが、この合宿にも慣れてきた頃か。
合宿所の廊下と奥に、鍵と鎖で封鎖された部屋があった?……知らないが、壊れてるんだろ。危ないから近寄るなよ。
前回、今日は韓国のホラー映画の話をすると言ったな。
韓国映画は最近注目されることが多い。アジア初のアカデミー作品賞受賞作『パラサイト/半地下の家族』や、ヒットしたダークファンタジー『神と共に』シリーズの功績なども大きいだろう。
韓国はアジアだが、意外とキリスト教徒が多いことは知っているか?
初回でホラー映画のお約束にキリスト教が関わっているという考察を話をしたな。
今回紹介するのは韓国のホラー映画で、キリスト教が深く関わる映画だ。韓国版オーメンという感じもするな。
〜哭声/コクソン〜
2016年の映画だ。
監督は『チェイサー』『哀しき獣』などで有名なナ・ホンジン。暴力的なサスペンスが得意の監督でホラーは初だが、先の読めない展開や演出はそのまま活きてるぞ。
舞台は韓国の田舎町・谷城(コクソン)。
この町では最近のどかな風景に似合わない猟奇殺人事件が多発していた。
犯人は皆、謎の発疹や錯乱を起こしていて、幻覚性のキノコが原因だと片づけられていたが、町では最近訪れた怪しい日本人が関わっているのではないかと噂される。
主人公の警察官は最初気にも留めていなかったが、被害がどんどん広がり、ついに自分の娘も犯人たちと同じ傾向が現れてしまい、調査に乗り出すという展開だ。
謎の日本人は『シン・ゴジラ』にも出た日本の俳優・國村準だ。彼がふんどし一丁で四つん這いで走り回ったり、鹿の死骸を貪る怪演だけでも観る価値はあるぞ。
ホラーではあるが、中盤までは意外とダラダラ進むんだ。
火事場で煤まみれになった殺人犯が暴れてちょっとした騒ぎが延々と続くシーンシールは「今観てるのはB級ゾンビ映画か」と疑いたくなる。
アジアの見慣れた田舎と相まって、大したことはないと思ってしまいそうになるのが罠だな。
気づいたときにはことが進展して、何が真実か見失っているのがこの映画の肝だ。
事件の被害者の写真を収集する日本人。
彼を悪霊だと指摘し、祓おうとする胡散臭い祈祷師。
亡霊のように現れて助言を与える謎の女。
怪しい人物が次々現れて、ひとつを信じるともうひとつ矛盾が生じる。
この映画のキャッチコピーは、「疑え。惑わされるな」だ。
冒頭では、聖書のルカによる福音書の一節が引用されるが、これはキリストが死後復活した際恐れをなす民衆を説き伏せる部分だ。
他にも、悪魔に取り憑かれた娘が貪り食べる魚、鶏が三度鳴くなど、ネタバレになるかもしれないから詳しくは言えないが、キリスト教のモチーフは随所に出てくるぞ。
そうそう、駄洒落のようだが、タイトルのコクソン、地名の谷城(コクソン)、そして俳優の國(コク)村(ソン)で三位一体にもなっているな。
悪魔に惑わされず、信仰を持ち続けることができるか。
キリスト教圏ホラーでときどきテーマになることだが、この映画ではまず何が神で何が悪魔か見分けるのがとても難しい。
宗教に関しての知識がなくても、疑心暗鬼で誰に頼ればいいかわからない怖さは充分にわかるはずだ。
この映画はいくらでも解釈できるけど、ひとつの答えが出るようには作られていないと思う。
むしろ、人間にとって、神の試練と悪魔の所業は過酷すぎて見分けがつかないということがテーマじゃないだろうか。
何度も見返して別の見方ができるし、見るたびに伏線が見つかる映画だ。
わからないものをわからないながらもそのまま楽しむ、そういう見方も大切だぞ。
さて、韓国のホラーといえば、最近流行しているものがあるのは知っているか?
そう、Kゾンビと言われる新たなジャンルで、いわゆるゾンビものだ。
次回はその火付け役になった映画を紹介しながら、ゾンビものというジャンルの成り立ちについて、少し話をしていこう。
より楽しい夏が、終わらない夏にならないよう、しっかり理解を深めてくれ。
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