ゾンビものを知ろう!〜『新感染/ファイナル・エクスプレス』〜
六回目の講義になるな。
夏もそろそろ終わり? この合宿所は季節感が案外ないからな……。何日経ったかなんて気にするなよ。時間は充分あるからな。
今回はホラーの一ジャンル、ゾンビものについて紹介しよう。
ゾンビというと、どんなイメージがあるだろうか。
腐りかけの動く死体、噛まれると感染する、頭部を壊さないと死なない……作品によって差異はあるがこんな感じか。
では、ゾンビ発祥の地というとどこが浮かぶ?
アメリカのホラー映画発のモンスターと答える人間も多いだろう。
しかし、ゾンビという言葉自体の由来は案外古く、元を辿ればブードゥー教まで遡れる。
アフリカ大陸の一部の言葉で「不思議な力を持つもの」という意味の“ンザンビ”が語源だ。
ゾンビとは元々ブードゥーの神官が行う呪術のひとつだった。とは言っても、ちゃんと科学的な裏付けのあるものだぞ。
毒性の高い植物や動物の死骸などを使ったゾンビ・パウダーという粉で、人間を仮死状態にさせ、自由意志を奪う。
要は薬漬けにして奴隷にするということだな。
いかがわしいことは考えるなよ。だいたいは罪人の刑罰として用いられたものだ。
そして、そのゾンビに、噛まれることで死後復活し凶暴化する吸血鬼や、見た目はズタボロでも怪力を持つフランケンシュタインの怪物などのイメージを掛け合わせて、今想像されるゾンビ像を作ったのが、映画監督ジョージ・A・ロメロだ。
今あるゾンビ映画は彼がなければ生まれなかっただろうな。
それ以降爆発的に作られ、名作も駄作も玉石混交のゾンビ映画だが、最近新たなブームが徐々に巻き起こっている。
それがKゾンビ、つまり韓国のゾンビ映画だな。
劇場だけでなくNetflixなどの動画配信サイトでも徐々に人気が高まっているジャンルだが、今回はその火付け役にもなった作品を紹介しよう。
〜新感染/ファイナル・エクスプレス〜
2016年の映画だ。
韓国では元々映画よりweb漫画などでゾンビものが認知されていたらしい。これを撮ったヨン・サンホがアニメ映画の監督で、今作が実写初作品なのも、そういった流れがあるかもな。
物語は、仕事一筋で家庭を顧みない主人公が、誕生日を迎える娘に別居中の母親に会いたいとせがまれ、乗った
車両にもゾンビが乗り込んでいて、途中下車もできない中、乗客たちと協力しつつ、目的地まで辿り着くことができるのか、と言った感じだな。
密室劇に近い造りだが、中だるみするところなく疾走感がある映画だ。
人間が襲われても次々押し寄せるゾンビで覆い隠されるという手法でスプラッタ描写を抑えているため、流血が苦手でも案外観られる作品だぞ。
また、韓国は日本と同じく銃社会ではないため、ゾンビに有効な武器がないまま、状況を切り抜ける緊迫感も見所だ。
さて、話は少し逸れるが、ゾンビ映画の黎明期である60年代アメリカで何があったか知っているだろうか?
ベトナム戦争と公民権運動だ。
まず、ベトナム戦争は主にゲリラ戦だった。
民兵を一般人だと間違えれば後ろから討たされるし、逆だと市民の反感を買い、敵が増える。
この状況は、さっきまで生きていた味方がゾンビになり、戸惑う間に敵が増え、個々は弱いのに結局数で押し負けてしまうというゾンビものの構図と重なるな。
次に、公民権運動の末、法の上では平等になったとはいえ人種差別は根深く、私刑や暴行が各地で行われたのは知っているだろうか。
同じ人間のはずだが別種の者たちが相手の脅威に怯えたり、惨劇を行う。
それを人間とゾンビの対比に当てはめ、風刺的に描いたのが、前述したゾンビ映画の祖・ロメロ監督だったわけだ。
当時の世相を反映したホラーだからこそ、多くの観客の興味を引いたんだろうな。
話を元に戻そう。
この映画が撮られた韓国も北朝鮮との問題があるな。
人種も言語も近いが国境を隔てる隣国の存在は、ゾンビ映画が誕生した背景に少し近いように思える。
作中でなかなかゾンビを倒せないため、列車内にバリケードを置き、その障壁の中にも階級差や対立があるなど、象徴的に描かれているぞ。
こういったところも現在の韓国ゾンビ映画ブームの原因かもしれないな。
迫力あるハイスピードなゾンビの映像はもちろん、極限の状況下で起こる善悪では割り切れない人間ドラマも魅力の映画だ。
これが面白かったなら、前日譚にあたるアニメ映画『ソウル・ステーション/パンデミック』やコメディ色の強い『感染家族』なんかも観てみるといい。
次回は少し迷ったが、最近とあるソーシャルゲームアプリのイベントで少々話題になった、ゾンビに近いジャンルのモンスターについて考えてみようと思う。
時流や流行り廃りもホラーには欠かせないからな。
そう、次取り上げるものは“キョンシー”だ。
より楽しい夏が、終わらない夏にならないよう、しっかり理解を深めてくれ。
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