切ないホラー映画も観てみよう!〜『マローボーン家の掟』〜
今日で四回目だな。縁起の悪い数字だが、こういう講座ならむしろお似合いだろう。
合宿所で気になることがあるのか?
何、風呂の蛇口を捻ると水が赤くなる?
古いから錆びてるんだろう。夜中2時以降はあまり使うなよ。
……別に、ただ俺が修理に行けないからってだけさ。
本題に入ろう。
ホラー映画で「〜をしてはいけない」「〜をすると恐ろしいものが来る」という掟を目にしたことはないだろうか。
単独行動やカップルどうしで人目をはばからず行為に勤しむなどの共通のお約束は置いておいて、その映画の中で禁止される事項だ。
例えば、『エルム街の悪夢』の寝ると夢の中で殺人鬼に襲われるというもの。
飼う上での禁止事項を守らないと可愛らしいペットがモンスターに変貌する『グレムリン』なんかもそうだな。
最近は音を立てるな、明かりをつけるな、あるものの名前を口にするな、など禁止系ホラー映画が再注目されつつある。
今日紹介するのは、その中でも一風変わったホラー映画だ。
〜マローボーン家の掟〜
2017年のアメリカとスペインで製作された映画だ。
監督は『パシフィック・リム』『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロが製作総指揮をした、『永遠のこどもたち』の脚本を担当したセルジオ・G・サンチェス。
怖いだけじゃない、切ないホラーを撮るのが上手い監督だぞ。
舞台は60年代後半のアメリカだ。
マローボーン家の母親と4人兄妹が、森の中の大きな屋敷に移住してきたところから物語は始まる。
凶悪な犯罪者だった父親の逮捕をキッカケに、母の生家に逃げ、辛い過去を忘れて人生をやり直すはずだったが、幸せな暮らしは母の病死で一変する。
一家離散を防ぐため母の死を隠して暮らす兄妹だが、さらに不幸なことに、脱獄して屋敷に乗り込んできた父を長男がはずみで殺害してしまう。
兄妹はその遺体を隠した屋敷で、母の遺言にあった五つの掟を守りながら、人目を忍んで鬱屈した日々を送っていたが、家中で起こる怪奇現象や彼らを怪しむ
弁護士などが暮らしを脅かし、彼らの掟に隠された真実が徐々に浮き彫りになっていく。
というのがあらすじだ。
グロいシーンはジャンプスケア的な驚かすシーンはほぼなく、映像が綺麗で初心者にも見やすいはずだ。
自然豊かなのにどこか寂しい森の風景や、兄妹を気にかける近所の少女と長男の僅かな時間の逢瀬は、レトロな青春映画的な美しさでもある。
正直作中の謎のタネにはホラーやサスペンスが好きなら途中で気づいてしまうと思うかもしれない。
しかし、この映画はそういったトリックが主眼ではなく、掟を敷いて限定された空間の中で生み出されていた家族のあり方の方だから問題ないはずだ。
タイトルにもあるマローボーンは兄妹の母親の名字だ。
忌まわしい記憶と共に父親の名字を捨て、母“マローボーン”の子どもたちで居続けるために彼らは掟を敷いて、新たにやり直そうということだな。
兄妹にとって、亡き母との絆でもあるし、切っても切れない父の呪いでもある、血縁の持つ陽と陰の両方の側面を描いた作品だ。
家族というのも、ただの他人どうしを繋ぎ止めるための掟という見方もできるだろう。
それを踏まえて、ラストがどうなるか観てみてくれ。
こういう家族の話と怖いだけではない切ないホラーが気に入ったら、『アザーズ』や監督の前作の『永遠のこどもたち』もお勧めだ。
もう一本紹介したいものもあるが、それはまた今度にしよう。
今までアメリカと日本のホラーを紹介してきたから、次回は少し趣向を変えて、韓国のホラー映画の話をしようと思う。
より楽しい夏が、終わらない夏にならないよう、しっかり理解を深めてくれ。
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