第14話 発光
もう少し時間をかければ仕留められると思った矢先、突如として発光し出した魔花に対し、ガルアとジェイルは苦戦を強いられていた。
「追い詰めれて光るとか…虫かよ」
「軽口を叩くな!本当に死にたいのか!?」
「わーってるよ!油断しないって!つーかな?ジェイ、魔花が発光するとか聞いたことあるか?」
「・・・ないな。記憶を辿って見たが、そんなことは聞いたことがない」
「ジェイがそう言うならマジでないってことだな。つうか、記憶を辿って見たって何かカッコイイな!」
「どうでも良い事に反応するな!」
「いや、今度使ってみようかと思ってな」
「・・・一応聞いてやるが、どんな時に使う気だ?」
「それはもちろん、女の子との会話に決まっているだろ?」
「どうやって使うんだ…」
「そうだなぁ…記憶を辿ってみたけど、僕が出会った中で君が一番可愛いね!とかどうよ?」
「・・・そのまま魔花に喰われてしまえ!」
「ひっでぇな!?それが、大切なパートナーに言うセリフかよ!?」
「大切だと思われたかったら、口ではなく手を動かせ!!」
「へーい!あらよっと!!」
「全く、器用な奴だ…」
苦戦を強いられている二人が何故軽口を叩きあっているかと言うと、広い視野を保つことが困難になったため、お互いがフォローしやすいように近付いたからだった。
互いの死角を狙った攻撃を防ぎ合って凌いでいるのだ。もちろん、お互いの癖を理解し合っているからこそ出来る芸当だった。
例えば先程は、飛び回っているガルアの死角から来た蔓をジェイルが弾き、その隙をついて足元から攻撃して来た根を滑るように移動してガルアが斬り裂いてみせた。
そうやって、互いに阿吽の呼吸で防ぎ続けているが、現状攻めることが出来ないでいた。要因は勿論、発光による光でわずかに動きが阻害され、これ以上は近付けないのが原因だった。
「しかし、マジでやばくないか?学園長の要請で魔花狩りの仲間が来てくれるまで耐えられると思うか?」
「冷静に判断して、無理だろう。流石に、このままでは体力がもたん。その前に、集中力ももたんだろうな」
「だよなぁ?どうするよ?」
「どうするか…か。・・・いや、その前のイレギュラーに対してどうするかが先みたいだな」
「へ?どういう…ああ、そう言う事ね」
二人の視界の隅に、一人の少女が映った。それはもちろん、
「マティナちゃん!相手を見過ぎだ!目をやられちまうぞ!!」
「その前に止まれ!君はここの生徒だろう!無茶をするな!!」
「ごめんなさい、お二人とも。私に言う事を聞かせられる男の人は、世界に一人だけなんです!!」
高速で近付いてきたのは、マティナだった。彼女は、眩しすぎる程発光している相手、魔花をじっと見据えながら疾走していた。
そして、魔花がそれに気が付き攻撃をして来た時、彼女は驚くべき行動に出た。
「…嘘だろ?っと!?あぶねぇ!?」
「油断するなと言っているだろう!しかし、確かに驚異的だな…目を閉じて対処しているのか?」
「そうとしか見えないな…」
二人が気にしてしまったのは仕方がない事に思えた。何故なら、本当にマティナは襲い来る無数の蔓や根に対して、目を瞑ったまま全てをさばいてみせたのだから。
マティナは、無数の魔花からの攻撃が襲って来るや否や、目を閉じ、そして、その全てを斬り裂いてみせた。
その後の攻撃も、前回同様舞うように全ての攻撃をかわしながら斬り伏せ、未だに無傷のままだったのだ。
「もしかして、音に反応しているのか?」
「いや、それだけではないだろう。もし、音に反応しているだけなら足元が疎かになるはずだ」
「ああ、確かに」
すでに、地中からの根による攻撃などで、グラウンドはとても走って回れるような状態ではなかった。にもかかわらず、マティナは目を閉じたまま何処がどうなっているのか分かっているかのように飛び回っていた。
「周りの気配が分かっていると言う感じだな」
「確かに、トップクラスの連中は動きの気配が分かるって言ってたが…あの娘も分かるって事か?」
「かもしれんな。いや、下手すると…」
「下手すると何だよ?まさか、それよりも上とか言う気か?」
「それはまだまだ経験が足りんだろう。しかし、お前より強いのではないか?」
「そんなわけないだろ!?と、言いたいところだが…マジでそうかも」
「魔花狩りとしてのプライドは無いのか…」
「事実は受け入れるのも大事だと思うけどな?それはそれとして…こっちへの攻撃が明らかに減ったな?」
「ああ…魔花のやろう、俺たち二人よりも彼女一人の方が厄介だと思ったみたいだぞ?」
「それが間違いだと教えてやろうと思わないか?」
「珍しく意見が合ったな」
二人はお互いを見合ってにやりと笑った後、すぐに行動に移った。
「えっと…マティナってあんなに凄い娘だったの?」
「そのようですね…テクトさんから聞いてはいましたが、やはり、聞くのと見るのとでは全然違うという事なのでしょうね」
「むぅ…とても筋肉が付いているようには見えないが?」
「強さの全てが筋肉と考えるのは止めなさいよ?」
「解り易い基準だと思うのだが?」
「あのね…」
「お二方ともそこまでです。魔花狩りコンビに動きがありましたよ」
「あ、本当ね。・・・このまま倒せそうじゃない?」
「どちらにせよ、見守るしかなさそうですね」
「そうみたいね」
「何故だ?俺の今の状態なら行けるはずだ!!」
「アンタの筋肉の状態何て関係ないのよ!大人しくしていなさい!!」
マティナを追いかけて来た3人が追い付いて時、すでにマティナは魔花と交戦状態に入っており、とても手を出せる状況ではなかった。そして、仕方なく見学しながら必要に応じて参戦しようとしていたが、激戦を繰り広げていた魔花狩りコンビに動きがあったのだ。
二人は、マティナに魔花の攻撃が多く集中しているのをチャンスと見て、一気に魔花に近付こうと駆け出したのだ。対する魔花は、マティナに意識を集中し過ぎていたのか反応が遅れた。そして、それが致命的となり距離を一気に0とされてしまったのだった。
「ぶっ倒れろ!」
「ぐおおおおおおぁ!?」
魔花狩り二人の渾身の攻撃が魔花の太い幹に直撃した。ガルアによる刺突により大穴が空き、ジェイルの大槌による渾身の一撃で一部がひしゃげた。しかし、それでも…
「ちょっと待て!?もう一撃くらい入れさせるサービス精神くらいないのかよ!?」
「魔花相手に何を言っているんだ?それにしても、やはり致命傷とはならなかったか…まずいな」
状況を見誤って魔花狩り二人から一撃を貰ってしまった魔花だったが、すぐに根や枝、葉や茎など全てを使って魔花狩りからの再度の攻撃を許さなかった。その場に留まって攻撃していれば、攻撃者本人が致命傷を負いかねないほどの怒涛の攻撃だった。
「おっ!?っとと!?わわっとぉ!?無駄口叩く余裕もないなこれっ!?」
「だったら口を開くな!」
「とは言えさ、これだけは言ってやらないとな?」
「なんだ?」
「所詮は植物、同じ過ちを繰り返したな!とねっ!!」
「・・・それには同意しておこう」
激しい攻撃をさばきながらも、二人がわずかに視線を向けた先は同じだった、そこには…
「ナイスフォローでしたよ、お二人さん♪」
当たり前のように一人の少女が急激に魔花へと接近していた。
魔花と言えども無限に攻撃の手を増やせるわけではない。とは言え、その攻撃の手数の多さは普通の人間ではとてもさばける数ではなく、魔花狩りでも油断出来る数ではない。
しかし、上位に値する魔花狩りにとっては分散されれば十分な隙と判断出来るようになる。そう、魔花にとっては運の悪い事にこの場にはその上位に値する人物が3人もいたという事だ。二人は言うまでもなくそれなりに名の通った魔花狩りの二人、そして最後の一人が、その隙を瞬時に見取り、一気に魔花との距離を詰めていた少女、マティナだった。
「私とお兄さんのラブラブ生活の邪魔をする植物何て!刈り取っちゃうんだからね♪」
可愛らしい言葉とは裏腹に、その動きは熟練の魔花狩りそのものだった。自分に向かって来る全ての攻撃に対して反撃で応え、そしてついには魔花を射程圏まであと少しのところまで接近してみせた。
「悪あがき、ご苦労様っと♪」
魔花は、最後の悪あがきの様にこれ以上近付けさせまいと根を幾重にも重ね、壁の様にマティナの前に出現させるも、彼女はそれを易々と斬り裂き、更にはその斬り裂いた根を踏み台にして魔花に飛びかかった。
魔花は、飛びかかって来るマティナを慌てて迎撃しようとするも、全ては遅すぎた。彼女が大鎌を一振りすると、とても斬り倒せそうになかった魔花の巨大な幹が、冗談のように簡単に斬り倒された。
「ちゃんと真っ二つにしてあげるから、おいで♪」
重力に従い、落ちて来る魔花の蕾を笑顔で待つ少女。もはや、勝敗は決しているようにみえた。
「マジかよ…あれを一撃で斬っちまうのか?」
「これは…認めるしかないな」
「だろ?彼女、俺たちより強いぜ?」
魔花狩りの二人も、最早終わったと軽口を叩きあっていた。
「嘘!?あんなの叩き斬る何て…テクトの魔土宇器どれだけ凄いのよ!?」
「テクトさんの魔土宇器の力だけではないと思うのですが…」
「中々だが、やはり筋肉が…」
「「それはいい(です)から」」
もしもの時は援護しようと待機していたエクレアたちも、もう終わったと安堵していた。
しかし、ただ一人…テクトだとは落ちていく魔花の蕾を見ながら警戒を強めていた。
「本当に…終わるのか…?」
(今まで魔花が発光するなんて聞いたことがない。なのに、それだけなのか?もしかすると、ここからまだ何か…)
テクトは、魔花がまだ何かするのではと思い、一挙手一投足を見逃すまいと魔花を見つめていた。その場に留まって…それが幸いしたのだろう。魔花が次の瞬間激しい発光をした時、遠くに居たお陰で少し眩しい程度で済んだのだから。
「うっ!?」
「なっ!?」
「くっ!?」
それぞれがそれぞれで魔花を注視してしまったために、目が眩んでしまった。6人が6人ともに、しばらくは目が使い物にならないくらいの光を入れてしまったのだ。だから、そこから何が起こったのか目撃出来たのは、テクト一人だった。
「嘘…だろ…?」
テクトは目を疑った。今までそれを見たと言う話を聞いたことがなかった。もちろん、それが行われているだろう事は分かっていたが、それが少なくとも人がいる場所で行われたことなどなかったのだから。
しかし、今目の前で起こっている事は間違いなく
「魔花が…開花した!?」
切り倒され、落ちていく中、魔花のつぼみが激しく発光しながら開花しているのだ。その事実に、複数の意味で驚愕するテクトだったが、すぐに叫ばなければいけないことがあった。
「みんな!今すぐに離れろぉ!!!」
テクトの叫びが木霊している中、やっと視力を取り戻しつつあるテクト以外の者が目にしたのは…開花した魔花から放たれた大量の花粉だった。
ワーフランド かなめうた @kanameuta
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