第13話 再びの襲撃

 テクトたちがトレーニングを切り上げ、寮へと戻ろうとしている時だった。突然、グラウンドの方から轟音が鳴り響いた。




「っ!?まさか!?」




 テクトは、反射的に音の方へと駆け出した。そして、他のメンバーは制止の声を上げながらも、止まらないテクトに続いて行った。






「嘘だろ…またあんなに巨大な魔花が学院を襲って来たのか!?」




 グラウンドへ辿り着いたテクトが目の当たりにしたのは、この間マティナが倒した魔花と大差のない巨大な魔花が大暴れしている光景だった。しかし、前回と違う所があった。




「学院がわざわざ呼び寄せるだけの実力はあるって事か…」




 前回は凄惨な状況だったのに対し、今回も確かに巨大な魔花が大暴れしてはいたものの、二人の魔花狩りによって人的被害は出ていないようだった。その人物とは勿論




「よっと!おいおい、こっちの負担が増えて来てないか?」




「馬鹿を言うな、想定の範囲内のはずだ。もしそう感じるなら、お前に無駄な動きが多いだけだ」




「相変わらず取り付く島もないなっと!うへぇ…さばけはするけど、中々隙を見せてくれないな」




「自分から斬って下さい何て言う魔花がいると思っているのか?」




「だーかーらぁ!なぁんでそんな真面目な返答しか出来ないんだよっとぉ!?あっぶねぇ!!」




「良いから、黙って集中しろ!お前の失態が、魔花狩り全体の評価に繋がりかねないんだぞ!」




「へいへいっと!膠着状態ってどうも苦手なんだよなぁ」




 いつもの漫才の様なやり取りをしながら魔花の相手をしていたのは、ノルジックスに常駐している魔花狩りのガルアとジェイルだった。




 二人は…主にガルアだが、軽口を叩きながらも襲い来る根や蔓などをかわし、さばいている。そして、隙あらば本体を攻撃してやろうと睨みを利かせていた。二人の活躍で、巨大な魔花と言えども釘付けにされており、学院の被害は今の所ない様子だった。




「良かった…前回みたいな被害は出ていないようだな」




「良かった、じゃないわよ!何一人で突っ走っているのよ!魔土宇器もまだないのに、一人で行ったって何もできないでしょう!!」




「そうですよ!お兄さんは、もっと自分を大事にして下さい!そして、怖がってマティナ怖いよぉ!と私に抱き着いてください!!」




「どさくさ紛れに何を言っているんですか、マティナさん?最後の言以外は、賛成するところではあるのですが…」




「む!?俺の鍛え直した筋肉を見せつける場面はありそうか!?どうなんだ!?」




「いや、見せつけなくて良いからね?邪魔になりそうだから、アンタは大人しくしていなさい」




「まあ、なんだ…何かすまない」




 追いついて来た騒がしい面々を相手に、勝手に行動したテクトはとりあえず謝った。反省しているかどうかは別の話だが。




「しかし、流石ね。一応は一流の魔花狩りなだけはあるわ。特に、ガルの普段を見ていると信じられないくらいに…」




「一応、年上で魔花狩りの先輩なんだぞ?呼び捨ては…どうなんだ?」




「アレに『さん』を付けて敬えって?絶対に嫌よ?それに、気軽に呼び捨てにしてくれって言われたし…」




「そう言えば、最初に言ってたな…」




「主に、私たちを見ながら仰っていましたけどね」




「ああ、うん。俺も呼び捨てにするわ」




「それで十分よ」




 などと言われているガルアだが、その戦いは目を見張るものがあった。その見た目通りに、軽々と自身の身体を操り、縦横無尽に魔花の攻撃を斬り伏せている。その手には、軽量を重視しているのかレイピア型の武器が握られていた。




 上から、下から、横から、斜めから、次々と襲い来る魔花の攻撃に対し、常にどこから攻撃が来るのか分かっているかの如く反応し、斬り、さばき、さらに深く貫くと言った攻撃を繰り出し、少しずつ距離を詰めているようだった。




 対して、ジェイルの戦い方は不動だ。巨大な棍棒を操り、その場から動かずにすべての攻撃を叩き伏せていた。その鬼気迫る様子は、魔花ですら焦りを感じるものがあるのか、動き回るガルア並みの攻撃が彼にも降り注いでいた。




 真下からの攻撃をすれば良いのではないか?と思うかもしれない。しかし、もちろん魔花も真下から根による攻撃を行った。だが、その隙をつかれてジェイルは前に、魔花の方へを前進してしまったのだ。




 それを何度か行った結果、ジェイルは魔花にどんどん近付いてきたのだ。流石に魔花は、これ以上この威圧的な魔花狩りを接近させたくはない。よって、彼を近付かせないための足止めの連撃のみになったのだ。




 ジェイルの瞳は常に魔花の本体に向いている。その射殺すような視線も、魔花を警戒させる要因になっていた。




 つまり、この二人はお互いに魔花の意識を自身に向けさせることで、一人に集中させないようにしていたのだ。何だかんだ言い合っていても、長くコンビを組んでいるだけはあった。




「本当に凄いな、あの二人は」




「そうね。あの巨大な魔花も、二人以外は目に入らないくらいに必死に応戦しているように見えるわね」




「今なら、私がそっと近づいてサクッと狩れるかも?」




「やめておけ、二人の集中力を切らせる要因になりかねないだろう?」




「そっか、残念。大人しく、お兄さんをイチャイチャしながら見守ろっと♪」




「こら!何でそうなる!?腕を組んで来るな!?」




「マティナ?今は魔花に襲撃されているのよ?他の魔花がいるかもしれないし、そんな事をしている場合じゃないでしょう?」




「そんなに怒らないでよ、エクレアさん。もう片方の腕は空いてますよ?」




「え…?そ、そんな事を言ってるんじゃないわよ!!」




「お兄さん、エクレアさんがもう片方の腕にしがみ付きたいって!」




「え?そうなのか?」




「い、言ってないわよ!そんなこと!!いい加減にしなさいよ、マティナ!!」




「きゃー!エクレアさんが本当に怒ったぁ!?」




「こら!俺を盾にするな!?エクレアの拳は結構痛いんだぞ!?」




「アンタがしょっちゅう問題を起こしていたからでしょう!!」




「まさかの飛び火か!?今回は何もしてないはずなんだが!?」




「そもそも、お兄さんが」




「お三方とも、じゃれ合っている場合じゃないかもしれません。魔花の様子が何かおかしいです」




「え?どういう事?」




「なあ、テクト?魔花は…発光したりするのか?」




「は?そんな事、するわけが…な!?」




 テクトが、そんなことあるわけがないと思って魔花を見てみると…遠目でも分かるほど発光していた。近くで戦っている二人は、その光のせいで先ほどより戦い難そうにしていた。




「もしかして、まずい?」




「ああ、少しずつ近付いていたガルが押し返されている。いや、それよりも発光している要因の方が問題だが…俺も、こんなことがある何て聞いたことがない」




「テクトでさえ知らない事って…相当まずいんじゃない?」




「確かに、テクトさんでさえ知らない事が起こっているとなれば…私たちも参戦した方が良いのではないでしょうか?」




「俺たちじゃ足手まといになるだけだ。とは言え、確かに嫌な予感がするな…」




「お兄さんの嫌な予感かぁ…当たって欲しくないけど当たりそうだよね?ここは、足手まといにならないマティナちゃんにお任せ!!」




「あ、おい!?」




 止める間もなく、マティナは魔花に向かって走り出していた。その手には、先日テクトが創り出した大鎌がいつの間にか握られており、普段の彼女からは想像出来ないほどの速度で疾走していた。




「何あの速さ!?もう!私たちも行くわよ!!テクトは、魔土宇器が無いんだからここで待っていなさい!!」




「テクトさん、ステイですよ?」




「俺たちに任せておけ!!」




「な!?お、おい!お前ら!?」




 魔土宇器の補助を受けた4人について行けないテクト。しかし、少し悩んだ末に、結局はもう少しだけ近付こうと思い、後を追いかけるのだった。

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