web上の創作論は趣味を押し付けてナンボ

 Web小説サイトでアンチなろう系を謳う創作論には、「冒頭の愚痴パートが数千字続いて、創作論パート開始前に飽きる」という問題がある。
 先ほど試しに10作ほど読んでみたが、内7作はその通りだったので、この印象も大きく外れてはいないのだろう。
 その点、本稿はなろう系テンプレ小説でも活用される「共有知識(前提知識)の省略」という手法で愚痴パートを大幅に削減し、読みやすさを向上させている。

 テーマからして「アンチなろう系」による創作論という趣味嗜好の問題であるため、おためごかしや妄想による「良文制作のハウトゥー」というよりは、徹底して「著者の好みに近い作品を書く方法」を綴っている。これは書籍のように売上を目的としないweb上の創作論としては、極めて正しい姿勢だ。

 たとえば序盤の文章作法解説についても、いわゆる正式な作法ではなく、ブログ調の比較的新しい作法でもなく、その中間にあるネット小説の文章作法を基準としている。
 今さら「正式ではない」という理由でポスト団塊以降のゆるやかな文体を批判されても困るが、ではどの程度の時期をベースにすれば良いのか――ゼロ年代初頭のメディアミックス前提期、ゼロ年代中期の地獄の時代ことポスト・メディアミックス前提期、ゼロ年代末期からテン年代初頭のラノベ・ルネサンス期、テン年代中期以降のなろう系隆盛期――という点についても、基準とすべきは著者自身の好みだろう。自分が書いた創作論で、自分が嫌いな文体の作品が増えるのも馬鹿らしい。

 何より、自分が何かを好きな理由、嫌いな理由を他人の受け売りで納得してしまう人は案外多いが、その辺りを自分なりに分析している点も好感が持てる。
 こう言った創作論はもっと増えても良い。

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