モーパッサンを知っていますか?

 阿刀田高の「知っていますか?」シリーズを思い出す一作。
 モーパッサンの短編について、その粗筋に加えて、筆者の軽妙なコメントが添えられている。

 上に挙げた阿刀田高は短編(ショート・ショート)を八百、星新一は千篇書いているのに対して、モーパッサンは三百近くを残している。
 ただ、前者ふたりに対して、モーパッサンは活動期間が短いので、長生きしていればもっと書いていただろう。

 モーパッサンの作品は、阿刀田や星に比べて、オチの切れ味は鋭くない。ただし、読み終えた後、読者にあれこれと考えさせる力は、モーパッサンの短編の方が優れている。作品に奥行があると言える。
 阿刀田や星の作品は切れ味鋭い剃刀、モーパッサンの作品は皮膚をえぐるノコギリ、というのが私のイメージである。
 良い意味で、生々しい後味のわるさがある。

 阿刀田や星の作品は、オチを知っていると楽しめない作品が散見されるのに対して、モーパッサンの作品は、オチを知っていても楽しむ余地のある作品が多い。
 だからこそ、オチまで解説している、このエッセイが成り立っていると言える。

 個人的な話をすれば、私はモーパッサンの「ひも(糸くず)」を思春期に読み、あまりに怖くて、それ以来、彼の作品を読んで来なかった。
 それがたまたま、このエッセイを目にして、再度、短編集を手に取った。そういう力がこのエッセイにはある。

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