辛い体験、などという言葉では表せない環境で生きてきた美しく繊細なベーシスト。
彼は、こんなに、というほどに愛されても、好かれても、相手を、自分を信じられない。
それでも、彼は変われた。いや、変わろうとすることができた。
彼がそう思えたのは、音楽の力、だけではなくて。そんな、苛烈な、眩しいお話です。
ここまで?というような暴力的な描写は確かにございます。
でも、美しく繊細なベーシストを、気にしてしまった貴方なら。最後まで読んで、そして満足して頂けることと思います。
どうか、彼を、テディを。
よろしくお願い申し上げます。
プロデビューしたものの全く売れていないバンド、ジー・デヴィール。ブレイクの切っ掛けをつかめずにいた彼らは、ルックスの良さを売りにすればいいとアドバイスを受ける。それを機に成功を収めた彼らだったが、注目されることに比例して様々なトラブルが舞い込むように。次第にバンドメンバーの関係性も変化していき、学生時代からの恋人関係であったルカとテディはお互いの関係を見つめ直すことになる。
皆様、洋楽は好きですか?
私は正直にいいますと、全く詳しくありません。ロックに関しましても、無知と言っていいでしょう。
それでもこの作品の作者が音楽を愛していることはよく分かります。そして登場するキャラクターたちも音楽を愛し、音楽で結びつき、音楽に救われていることがよく分かります。
メインの登場人物であるルカとテディも音楽を切っ掛けに親しくなった恋人同士です。同性ということで周囲から厳しい目を向けられたり、お互いのことが分からなくなったり、距離をとる選択を突きつけられても音楽が二人を繋いでいます。
テディという青年はとても困った存在です。トラブルメーカーであり、予想外の行動をしでかし、不安定で、しかし目を離せないほどに美しい容姿をもっています。
様々な登場人物を惑わすテディですが、彼の奥底には愛されたいという欲求と、こんな自分が愛されていいのだろうかという不安があります。
テディがなぜ不安定で、どこか壊れているのか。それを知ってしまえば、どうしても彼を突き放せず、彼の幸せを祈ってしまいます。その時点であなたはテディの魅力にはまっているでしょう。
この作品はシリーズものでして、他にも作品があります。せっかく気に入ったキャラクターとお別れなんて……と悲しむ必要はありません。他にもあります! ルカとテディ、他の魅力的なキャラクターたちともまだまだ会えます!
私は時間軸順に、ルカとテディの出会いを描いた学生編を読んでから本作を読みましたが、この作品から読んで学生編を読んでも全く問題ありません。
時間軸順だと未来がわからないのでハード、本作から過去に戻れば、結末は分かっているので若干マイルドな仕様になっていると思います。ちなみにこれは独断と偏見による意見ですので参考までに。
しっかり下調べをされていると分かる描写。散りばめられた伏線の回収。納得と共感のある心理描写。音楽へのあふれる愛。
すべて揃った作品です。
傷ついた心を癒やすには時間と傷ついた分以上の愛が必要です。しかし、それを与えられる人がどれだけいるでしょうか。多く人がきっと重荷に感じます。それでも、愛がほしいと望んでしまうのは誰もが持ってる感情です。
自然に愛を与えられるルカと愛を与えてもらいたいテディの出会いは奇跡であり、運命だと私は信じたいです。
さあ、想像できましたか?
どうして好きか、という理由はなんでもいいのです。彼らの奏でる音楽はもちろん、ライブパフォーマンス、ルックス、もしくは愛情たっぷりのファンサービスとか。
とにかく大好きで、寝ても覚めても頭の中にはいつも彼らがいるのです。疲れた時には寄り添って、嬉しい時にはそれを何倍にもしてくれる。あなたはそんな彼らがどんなふうに『今』に至ったのかを、きっと知りたくなるはずです。
ここに綴られているのは、まさしく彼らが生きた道。『物語』とか、『小説』で括ってはだめなのです。これは彼らの『伝記』です。
一度文字を追えば、鼻先を掠めていく新緑の匂いを感じ、目の前に広がる風景に心躍り、彼らの聴く音楽もきっと聞こえるはずです。ほら、すぐそこに。
もちろんロックバンドの伝記ですから、波瀾万丈が付きものです。それも舞台は平和惚けした日本ではありません。少々覚悟は必要ですが、それもまた一興。ある教授によれば、自分が理解できるより少しレベルの高いことの方が衝撃を受けるほどのおもしろさを感じ得るのだとか。
最後に、私の意見を言うのであれば、このシリーズは時系列順で読むべきです(作者コレクション、Z D Vシリーズが時系列順になっています)。作者の手腕によりどこから読んでも十二分に楽しむことは可能でしょうけれど、私にはそれを薦めることができません。残念ながら私は時系列で読み進めてしまっていて、今現在もまだ彼らの進む道の途中ですので。
あたかも本当に存在しているかのようなリアリティを持って描かれるロックバンド、ジー・デヴィール。売れないミュージシャンから瞬く間にトップスターに躍り出る彼らにはまばゆいほどの華々しさがあります。
しかしその裏側では彼らを闇に突き落とすような出来事の数々が降りかかり……。
ディスクに見立てた章構成、各話の内容とリンクした名曲のサブタイトルという音楽ファンならニヤリとしそうなパッケージの中で展開される物語は、一度聴き始めたらもっと聴きたくなる吸引力があります。話のテンポもよく、独特の重低音が効いているような文章。
ディテールにこだわり、細かいところまで丹念に描写されているのはロックスターの危うい日常やショービズ界の恐ろしさだけではありません。それぞれの登場人物の心の奥を痛いほどに突き詰め、読者に「そうだ、人の心とは確かにこうできている」と頷かせます。
生の苦しみを体現するような主人公と、激しい感情をぶつけながらも支え寄り添わずにいられない恋人たち。バンドの仲間として、愛しあう人間同士として、彼らの関係性はどこへ向かうのか。
テーマの一つである同性愛、頻繁に登場するセックスやドラッグシーンに眉をひそめる方もいるかも知れませんが、その先に描いてあることを読まなければ勿体ない。主人公が、そしてバンドが辿り着く境地には、この物語を追ってきてよかったと心底思いました。
濃密な人間ドラマを読みたい方にはお勧めの作品です。
こちらは作者様のロックバンドへの愛情が濃密に凝縮された作品です。タイトル、章構成、エピソード、どれをとってもロック好きにとっては垂涎三尺のはず。
ただ……わたしは絶望的に音楽に疎いので、別の観点から切り込みます。
①変化の中で変わらないもの
②見ているようで視ていなかったもの
③傷を負うように刻まれる絵画
この3つが際立つ『美しいことは罪ですか?』を体現した作品だと感じました。
①成功への道を駆け上るロックバンド。そこに押し寄せる嵐、荒波。
その中で変わらないものが2つあります。それは「食」と「愛情」
環境や状況が変わると食べるものも変わります。その「食」にまつわる描写も眺めていて楽しい。でもそれ以上に、変化する「食」の中にも、彼らにとっての「いつもの」が描かれています。これが印象的でした。
そして一途に貫かれた彼らの「愛情」が最終的に辿り着いた関係性を、わたしは非常に好意的に受け止めました。どこか軽やかで、爽やかな印象なんですよ。
②この作品ではドラッグやセクシュアリティに関する内容が具に描かれています。
そういった話題から目を背けたいわけではない、けれど描写そのものは苦手。
そういった方はいくらでもいるでしょう。
だからこそ、ここまでの徹底描写は「勇気」ある行動だなと感じました。またそれを為しうるだけのリサーチ力に驚きを隠せません。好奇心を煽るようなものではなく、知ることで理解に近づいてゆく、踏み込んでゆける素晴らしい作品です。
③美しいことがまるで罪であるかのように、精神的にも身体的にも繰り返し打ちのめされるテディ。これは弛んだ不安定な糸の上で危なっかしい綱渡りをする彼の物語でもあります。当然ですが、何度も落ちたり逃げたりします。
その度に、彼は罪を背負うかの様に、背に傷を刻みつけていきます。本人は平気な顔をして振る舞っていますが、見ている側にとっては痛々しい。それがいつしか彼を明確に「理解」した人物によって、テディの背に刻まれた傷が色鮮やかな絵画に昇華する。
この感動体験を、絵が色づいていく様を、できるだけ多くの方が鑑賞してくれたら、と願わずにはいられません。
世界をまたにかけて活躍するロック・スターの物語です。
作者様はかなり音楽に精通している方とお見受けします。物語の中に出てくる音楽のワードがとても詳しく、そして非常に「通」なのだと感じられます。音楽に詳しい方ならその部分だけでもテンション振り切ってしまうことでしょう♪
そして、主役達のバンドは世界各国を巡る訳ですが、その描写もまた素晴らしく美しいです。海外の美しい情景や美味しい食べ物等…、そういった部分でも非常に魅力的な作品です。
……でも、重要なのはココからです。
こちらの作品、決してハッピーなだけのサクセスストーリーではありません。世界的スーパースターや華々しい世界特有の「闇」が赤裸々に描かれています。そう言った目を覆いたくなる「闇」の部分にスポットを当てる事でスーパースターならではの苦悩や感情がよりリアルに伝わってくるのです。
レビューなので「ソフト」な紹介をしていますが、かなり…いえ、非常に「ハード」な描写です。もしかしたら、余りの衝撃に目を伏せてしまう方も居るかも知れません。しかし、その「闇」の部分に向き合うからこそ深い感動が生まれます(私もドキドキしながら読みつつも…、何度か泣いてしまいました)。
この作品は、良い意味で…とんでもない「衝撃作」、そして「問題作」だと思います。是非、皆様も作者様が描く深い世界に足を踏み入れてみて下さい!(心臓の弱い方は心臓をトントンしながら…(笑))
貴公子なヴォーカルと繊細な美貌のベーシストを中心に奏でられる、華麗で凛としたドラマ。
ドラッグ、恋人の共有、カメラの前でのあけすけな戯れ、酒盛り……と、いかにもロックミュージシャンらしき奔放さが随所に出てきますが、本人は悩みも迷いも夢もある仲間思いの青年たち。
突然のブレイクにとまどい、流され、泳ぎ、なにかを見失ったり見つけ直したりしながら生きる姿が、確かな筆致で丹念に描かれます。
なかでも存在感たっぷりなのが、美貌のベーシスト。不幸を呼び寄せる体質には次々と苦難が降りかかりますが、起き上がる度したたかに妖艶さを増していくかのよう。
ロック好きにはたまらない描写もちらほら。本文の描写や、サブタイトルに示される曲名、バンド名に触発されて、頭のなかではいろんな曲が鳴り響きます。
美しいロックな物語に酔ってみませんか。