モブから始めるキャンパスライフ
@yokuwakaran
第1話
子供の頃から長距離走だけでは負けた事がない。
でも球技は壊滅的にダメだった。
特に、野球やテニスみたいに球だけでなく、バットやグローブやラケットなどの道具を使う競技は更に壊滅的にダメだ。
『野生動物としてなら運動能力が高い。
でも人間としてなら終わっている。』そう同級生からは茶化された。
僕は帰宅部だった。
集団行動が苦手・・・という事もある。
僕には親しくしている友人はいなかった。
それ以上に要領が悪すぎて、部活をやらず必死で勉強しないと普通の成績をキープ出来なかったのだ。
勉強は毎日欠かさずしていたが地頭があまり良くないのか、勉強の仕方に要領の悪さが出ていたのか、成績は中の上、つまり『普通』だった。
なので僕は必死で勉強したにもかかわらず『三流大学』にしか合格しなかった。
「僕は勉学に向いていないんだ。
大学に入るのはやめて働こう。」そう思った。
だが母親は言った。
「なりたいものはあるの?。
ないなら大学四年間を執行猶予(モラトリアム)の時期と考えなさい。
あと、大学四年間で一生ものの友達を見つけなさい。
アンタを見てればわかる。
アンタはきっとトイレの中でも手を抜かず勉強する。
でも大学は『ただ勉強する所』じゃない。
大学には行きましょう?。
学費ならどうにかなるし。
父さんの残してくれた遺産もあるし。」
僕は知っている。
父親の残した遺産は、もうほとんど残りはない。
母さんはアルバイトに寛容だった。
だが僕が家に生活費を入れようとすると「自分が情けない。子供にこんな想いをさせて!。」と泣き崩れた。
大学への進学費用なんてウチに残っている訳がない。
母さんは昼も夜もなく働いて僕の進学費用を何とか捻出しようとしてくれているのだ。
僕に出来る事・・・それは社会人になって、母さんに学費を返す事だけだ。
新聞奨学生も考えたが、留年する可能性と過労で入院する可能性が高過ぎる。
そして何より、母さんが奨学生になる事に大反対だ。
「国公立の大学に入って金銭面での母さんへの負担を減らそう。」と思っても三流私立大学しか合格出来なかった。
「せめて家から通える範囲の大学へ入ろう」と思ったが僕が合格した三流私立大学は家があるド田舎からは飛行機で通わなくちゃいけない首都圏にあった。
僕は自分が情けなかったが、母さんは合格を本当に喜んでくれた。
何が嬉しかったんだろうか?。
マンモス大学でありながら有名な学者はまったくおらず『悪質タックル』で一躍脚光を浴びたような大学だ。
僕はとりあえずキャンパスライフを満喫しなくてはならない。
僕は一向にキャンパスライフを満喫しなくても構わないが、それが母さんの望みだった。
どうすれば『キャンパスライフを満喫』出来るのだろう?。
僕は授業を一番前の席で受講していた。
出席を取る授業は後ろの席で取り敢えず出席、出席を取らない授業は教室がガランとしていた。
だがどんな授業でも一番前の席で受講するメンバーは決まっていた。
僕はよく隣の席に座る女の子に声をかけた。
僕「ねぇ?」
女の子「・・・」
僕「ねぇ、ってば!」
女の子「ひっ!ご、ごめんなさい!私に声かけてくれてるなんて思わないから!」
女の子はこちらが申し訳なくなるくらいかしこまった。
僕「ねぇ?キャンパスライフ、満喫してる?。」
女の子「な、何かのセールスですか?。」
僕「いいから、真面目に答えてよ!。」
女の子「・・・。
いいえ、全然。
多分テスト前になると友達面する人が増えて、テスト前になるとその人達が馴れ馴れしく『ノート貸してよ』って言ってくると思います。
でもその人達はテスト終わったら、私に話しかけても来ないでしょう。
・・・で、私のノートのコピーは他のノートのコピーを手に入れるための交渉材料として使われて、全く知らないような『陽キャ集団』が私のノートのコピーを持ってる・・・。
で『この人のノート本当に見にくいよね。
上手くまとめられてないんだよね。
多分、要領が悪いんだろうね。』なんて聞こえてくるんです。
高校時代と同じ、地獄みたいなもんです。」
僕は女の子が急に饒舌になったので驚いた。
僕「・・・そうだよな。
高校時代まで何も楽しくなかったのに急に楽しくなる訳ないんだよな・・・。」
女の子「でも、今は付属上がりの派手な子らが幅を利かせてるんで、もう少ししたらマシになると思います。
女の子なんてウチの大学は元々少ないんですよ。
今は騒いでるから目立っているだけです。」
この子の『陽キャ』に対するヘイトは何なんだろうか?。
おそらく相当嫌な想いをしてきたのだろう。
僕「僕は母子家庭なんだよ。」
女の子「・・・はい。」
僕「僕を大学で遊ばせてる余裕は多分、僕の家にはないんだよね。」
女の子「はい。」
僕「だけど母さんは僕に『大学生らしく遊べ、キャンパスライフを満喫しろ』って言うんだよ。」
女の子「あぁ、それで・・・。
ふふっ、素敵なお母様ですね。」
僕「僕は母さんの気持ちには答えたいんだ。
でも『キャンパスライフの満喫の仕方』がイマイチわからないんだ。
どうすれば良いんだろう?。」
女の子「うーん。
その質問を私にしたのは間違いかも。
だって、それがわかってたら私だってキャンパスライフを満喫してると思いませんか?。」
僕「いや、僕は君に聞きたかったんだ。
酔っ払いの真似でスターダムに上り詰めたチャップリンは酒が飲めなかったんだよ?。
酒が飲めるヤツに酔っ払いの特徴はつかめない。
キャンパスライフを満喫しているヤツに『どうやったらキャンパスライフを満喫出来るか』なんて聞いてもわからない。
陽キャを外から見てる、僕と似た境遇の君の意見が聞きたかったんだよ。」
女の子「なるほど。」
女の子は考え込んでしまった。
「質問する前に話す相手の名前くらい聞いたら?。
名前の交換もしてなかったし、彼女、君の事『何かのセールスマン』だって思ってたじゃないの。」女の子の隣に座っていた女の子が僕に言う。
「陰キャが女の子に名前なんか聞ける訳ないじゃんねぇ?。
聞ける男ならもうキャンパスライフを満喫してるよ。
そこは察してもらわないと。」僕の席の隣の男が言う。
学校が始まって二週間、いつも教卓の前に座っている四人が喋った瞬間だった。
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