第4話

 体育の授業が終わった。

 イヤな思いもしたが、体育の授業を友達と一緒に受けたのも初めての経験だ、悪くない。


 体育館の更衣室で着替え終わって更衣室から出たところで、更衣室に入る哲と鉢合わせた。

 哲「待っててくれよ!。すぐ着替えるから!。」

 そんな必死で言われたら、待たない訳にいかないな。

 僕は更衣室の外で哲を待った。

 よく考えたら、誰かを待った経験というのが初めての経験だ。

 ・・・悪くない。

 本当は『遅いぞ!何やってたんだ!』くらい言うのが本当かも知れない。

 でも本音で言うと『待っててくれよ!』の一言が嬉しすぎる。

 あと五時間くらいなら笑顔で待てるくらいだ。

 これが母さんの言っていた『一生ものの友達』だろうか?。

 『一生もの』かどうかはわからないが友達は出来た。

 ニヤけた顔を見られないように下に顔を向ける。

 何もしていないのだがいかにも「考え事をしています」という感じをだそうと、体育館の柱の梁にもたれ、下を向いている自分を演出した。

 こういった演出は日常茶飯事だ。

 高校時代、一人ぼっちである事を隠すために眠くもないのに机に伏せて寝ているフリをしていた。

 悲しいボッチの習性である。


 視線を床に落としていると、何かが僕を覗き込んでいる光景が視線の端に入る。

 反射的に股間のチャックに手をやる。

 ボッチが見られている理由なんて「チャックが開いている」か「尻が破れている」かしかない。

 ・・・良かった、チャックは開いていない。

 良くない、何で僕は覗かれていたんだろうか?


 頭をあげて、視線の主を見る。

 中島さんだ。

 何で声をかけてくれないんだろうか?。

 いや、内気な中島さんが一人で声をかけられる訳がない。

 遅れて内藤さんが来た。

 「待った?ごめんね~!。」との事。

 授業が終わったら、二人で真っ先に更衣室に行ってたじゃん。

 女子更衣室までついて行く事なんて出来る訳もなく「まあ、ここまでか」と別行動をとろうと男子更衣室に一人で入った。

 遥か先に更衣室に入ったはずの二人が僕より後に更衣室から出てくるのか。

 「女の子の着替えには時間がかかる」というのは都市伝説ではないらしい。

 内藤「急いだんだけど、待たせちゃったみたいね。」

 中島「私も急いだんだけど・・・。」

 ちょっと待て。

 中島さんが急がなきゃ、内藤さんはそんなに急がなくても良かったんじゃないの?。

 そもそも中島さんは誰を待たせてたの?。


 ラブコメの主人公に必要な能力がある。

 「何でコイツこんなにモテるの?」と理解出来ない事も多い。

 ただ二点に於いてラブコメ主人公のパラメーターは天元突破している。

 一つが「ラッキースケベ力」である。

 ラブコメ主人公は僕なんかが普通に生きていたら起きないだろうラッキースケベが日に何回も起こる。

 何回も不慮の事故で女の子の胸を揉み、女の子の着替えを覗く。

 もう一つが「鈍感力」である。

 ラブコメ主人公は「そこは女の子の気持ちを察してやれよ!。」という場面で、とんでもない天然ボケをかます。


 僕はラブコメ主人公じゃないから、そこまで鈍感にはなれない。

 中島さんが待たせていた、という相手とは僕だ。

 「いやまさか」とは自分でも思う。

 でも冷静に考えて、それ以外には考えられない。

 やばい。

 涙がでそうなくらい嬉しい。

 今までの人生ラブコメゲームなら、役名も声優も立ち絵も設定もないモブ・・・いや、モブ以下だっただろう。


 僕は例えモブだとしても初めて舞台に立てた。

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