第2話

 学食へ来た。

 いや、学食には毎日来ている。

 いつもとは違う。

 連れがいる。


 今日の丼物を頼む。

 今日は『イカ天丼』だ。

 なかなかリーズナブルでボリュームもある。

 好みで言うと少しタレが多すぎだ。

 甘過ぎる。

 だが、この値段でこの味ならば合格だ。

 今度『イカ天丼』を見かけた時は、もう一度注文しよう。

 しかしイカ以外の天丼はあるんだろうか?。

 卒業するまでに海老天丼は食べれるんだろうか?。


 「値段につられてカレー頼んでみたら、肉が鶏肉じゃねーか。」連れの男が文句を言う。

 「鶏肉、嫌いなの?。」と僕。

 「いや、大好物。

 焼き肉か焼き鳥かと言われたら、俺は迷わず焼き鳥を選ぶね。

 でも、カレーは普通ビーフでしょ?。」と連れの男。

 「いや、カレーって普通ポークじゃない?。」と僕。

 「あ、そうかもね。」と連れの男。

 簡単に折れるなよ。

 そこは食べ物に対するこだわりが衝突する場面だろ?。


 連れの男「・・・ありがとうな。」

 僕「何が?。」

 連れの男「今日、俺大学辞めるつもりだった。

 さっきの会話が明日だったら、多分俺は明日大学にはいなかった。」

 僕「別に意図した訳じゃねーし。

 それに『充実したキャンパスライフ』はまだ手に入れた訳じゃねーし。」

 連れの男「手に入れたようなモンだろ?。」

 僕「何でだよ?。」

 連れの男「お前、本気で言ってるのか?。

 世の中には一人じゃ出来ない事ってのがあるんだ。

 『喧嘩』

 『じゃんけん』

 『追いかけっこ』

 『恋愛』

 そして『充実したキャンパスライフ』。

 俺の『充実したキャンパスライフ』にはお前が必要だし、お前の『充実したキャンパスライフ』には俺が必要なんだよ!。」

 俺「うーん。

 わかったような、わからないような・・・。」

 連れの男「今はまだわからないで良いんだよ。

 さっき教室で話した女の子二人いただろ?。

 あの二人も今頃、色の着いた光景を見てるよ。

 昨日までの灰色の風景じゃなくて。」

 僕「そういうもんなの?。」

 連れの男「うん。

 これは恋愛感情なんかより、もっと希望に満ちた感情だからね。

 俺らだって、あの灰色の日々で恋愛感情を抱かなかった訳じゃないだろ?。

 でも朝『おはよう』って言い合える仲間がいるって本当に大事な事だし、涙が出るほどうれしい事なんだよ。」

 僕「そんな事言っても、僕、彼女達の名前も知らないんだけど。」

 連れの男「俺の名前も知らないよね?。

 少しは気にしようよ!。

 俺は飯野哲(いいのさとし)。

 これからよろしくな!。」

 僕「僕は天田準(あまだじゅん)。

 こちらこそよろしく。」

 これが哲との腐れ縁の始まりだ。


 

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