ヒロシマは泣いていた

猫田

子供の無邪気

アヤ子「ヒロくーん!勝太ー!こっちよー!」

 近くの空き地から声が聞こえた。それは間違いなくアヤ子の声だった。

勝太「ヒロ、あっちの空き地からじゃ!」

 勝太は、ヒロの腕を引っ張り、その声のした方に駆けつけた。

アヤ子「あ!やっと来た~おーそーいー」

勝太「ごめんって!うちの母ちゃん説得させるのに時間かかったけぇさ…」

ヒロ「わしゃ勝太んこと待っとったけぇ遅れたわ。」

アヤ子「もー…ったく勝太ぁ、ヒロくん待たせちゃダメじゃろ」

勝太「いやでもホンマにうちの母ちゃんしつこいんじゃって…」

 アヤ子は、ずいぶん前からここにいたらしい。

アヤ子「ま、ええわ。で?今日は何する?」

勝太「競争せん?競争!誰が一番早く走れるか!」

ヒロ「えー…いっつも勝太が一番になるじゃん」

勝太「ええじゃんか~後でヒロとアヤがやりたい遊びやっていいけぇ…」

ヒロ「ほんなら、もっと友達呼んで野球やりたいんじゃけど。」

アヤ子「アヤはおにごっこしたーい」

勝太「分ーかった分かった…まずは競争じゃろ?」

 この少年少女たちは、自分たちがどんな状況下で暮らしているのかも気にせず無邪気にはしゃぎまわっていた。

 どれだけ時間が経っても、親たちが迎えにくるまではずっと遊んでいた。

「アヤ子~帰るよ~」

「勝太、何しとるんね!はよ帰ってきんさいって言うたじゃろ!」

 2人の母親が迎えに来ると、アヤ子は笑顔いっぱいの表情でヒロに手を振った。そして勝太は母親に怒られ、はぶてて拗ねて帰っていった。

「ヒロ、ごめんねー!遅れた…もうアヤちゃんも勝太くんも帰っとったんじゃね…待った?」

ヒロ「ううん、全然大丈夫よ。2人ともさっき帰ってったばっかじゃけぇ。」

 ヒロにも母親が迎えに来た。実は2人が帰ってからかなりの時間が経っていたけれど、ヒロは母親を心配させたくはなかった。


「ヒロ、ごめんね…今日もご飯少ないんじゃ…」

ヒロ「ええよ。広島がえらいやばい状況っちゅうっていうことくらいは知っとるけぇ」

「…もしお母さんが死んでも泣かんで、広島の代表らしく生きていくんよ」

ヒロ「はは。母さんにゃあには死ぬなんかまだ早い話よ」

「…ほうじゃったらええんじゃけどね…」

 広島県の土地の神である若い親子の影は、まだ明るい夕焼けの中に消えていった。

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ヒロシマは泣いていた 猫田 @kantory-nekota

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