第4話 巡り廻る星の夢

 今私は再び星見の丘に立っている。

 彼女が私と一緒にいたのはもう十二年も前の話で、私は高校生になった。

 あの時の彼女の年齢にやっと追いついたのではないだろうか。

 成長した私を見てほしい気持ちもあるが、きっともう彼女と会うことはないのだろう。今日は久しぶりに昔の日記を見つけたから思い出を振り返っていたというわけだ。

 おかげで随分とセンチメンタルな気持ちにはなったが、まあなんだ、たまにはこんな気持ちになるのも悪くはないだろう。


 それにしてもここはいつも凛とした風が吹く。頬を伝う涙が直ぐに乾いてしまうじゃないか。

 かぴかぴに乾いた涙の後をぽりぽりと掻いていると、何とはなしにふと言葉が口をついて出てくる。


『願い星、叶い星。私は願う。この頭上に広がる星々を、そこに広がる数多の世界を、終わりなき不思議を、めぐりまわる旅の力を。私は願います』


 なあんてね。冗談さ。

 星々に背を向けて帰ろうとすると、後ろでガサッと物音がする。

 なんだと思い振り返るとそこには、誰かが倒れている。


「あ、あなたは誰!?」


「酷いなあ、忘れたのかい? まあ、いいや。」

 むくりと起き上がった少女は十二年前と変わらない声でぼやく。

 ああ、そうだ。彼女はそういう人間だった。見た目は昔と変わらない、だけれどどこか憔悴した顔で高らかに宣言する。


「私? 私はね、星海の旅人さ!」

 彼女があの時と同じ言葉を発したと同時に抱き着く。

「ゴフッ、痛いよ佳奈ちゃん!」


「逢いたかったよ、詩織ちゃん」


「……うん、ただいま」


 私は満面の笑みを浮かべて答える。


「おかえりなさい、旅人さん」

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願う少女は星を駆ける 白と黒のパーカー @shirokuro87

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