第21話 初インターン!

 「明日は朝早いんだっけ?」


 「そうだねー、9時集合だから、6時には起きないと」


 見山ことハルはリビングでスマホをいじりながら、母の質問に答えた。


 「本当に早いのねー」


 母は2人分の紅茶を持ってきて、テーブルについた。ハルはありがと、と言って紅茶を受け取った。


 「インターンってよく分かってないけど、具体的には何をするの?」


 母は紅茶に砂糖を入れながら尋ねた。


 「私もよく分かってないけど、午前中は工場見学して、午後はグループワーク、って言うのをやるらしいよ」


 「工場見学ってすごいわね。何の工場なの?」


 「お菓子の工場だよ。チョコとか作ってるみたい。」


 ハルはそう言ってスマホを母に見せる。実際に、インターンの案内にお菓子の工場だと書いてあったわけではない。明日の集合場所から察しただけではあるが、この辺は「調べられることは事前に調べる」という山岡の受け売りから来ていた。母はハルのスマホを眺め、満足気に頷いた。


 「そうなんだー、じゃあお菓子とかもらえるのかしらね」


 「流石に子供じゃないから、もらえないでしょー」


 母のどこか的外れな言葉に突っ込むハル。


 「そうなの、残念ね」


 本当に残念そうにする母の真意は分からないまま、ハルは明日のA食品会社のインターンに想いを馳せる。


 山岡との飲み会の後、ハルはA食品会社からメールが来ていたことに気がついた。そのメールのタイトルには「1dayインターンシップ選考結果のお知らせ」の文字が。ハルがドキドキしながらそのメールを開くと、中には


合格


 の文字があったのだった。


 (あれは本当に嬉しかったなあ)


 ハルは今もそのことを思い出しながらニヤニヤしていた。


 「何ニヤニヤしてるの」


 母に指摘されるも、ハルのニヤニヤは止まらない。


 「インターンに受かった時、嬉しかったなあ、って」


 「本当に良かったわねえ」


 母もそう言ってニコニコしている。


 「でも、ハルがお菓子の会社で働きたいと思ってるなんて知らなかったわ」


 「うーん、働きたいかは分からないけど、興味はあるかな」


 ハルの脳裏に説明会で会った斉藤さんの姿が浮かんだ。


 「そうなのね。もしもその会社に入ったら、どんな仕事をするのかしら」


 「詳しくは分からないけど、営業かな。そのお菓子をスーパーに並べてもらえるように交渉するってイメージ」


 ハルは説明会で読んだ資料の内容を思い出しながら答えた。思い返すと、あまり自分でも分かっていない部分が多い。そうなのねえ、と言いながら紅茶を飲んでいた母は、ふと尋ねた。


 「ハルはどんな仕事がしたいの?」


 「うーん……」


 ハルは考える。今は2月。就活を始めて既に1ヶ月が経った。1ヶ月と聞くと短く感じるが、密度は濃かったと思う。山岡と会って就活の話をし、説明会に行き、エントリーシートを書き、写真を撮り、申し込み、励まされ、そして明日にはインターンに参加する。


 「なんだろう、ここ最近色々あったからなぁ」


 独り言を言うハルを母はニコニコしながら見つめている。少なくともハルは、山岡と年始に話した時から1ヶ月でインターンに参加しているとは思わなかった。


 そして大きく変わったのは、ハルの持つ仕事に対するイメージだ。説明会にいた斉藤さんを、証明写真を撮ってくれたカメラマン、仕事終わりに会った山岡。仕事は面倒くさい物、というハルの元のイメージに反して、みんな楽しそうに仕事をしていた。


 「自分が楽しいと思える仕事がしたいかな」


 今のハルが導いた答えはこれだった。ハルがそう言うと、母は頷いた。


 「仕事は楽しいのが1番よ。明日は頑張ってね」 


 母のその言葉に、ハルは満面の笑みで頷いたのだった。



※※※※※※※※※※※※



 「めちゃくちゃ眠い……」


 昨日あれだけ意気込んでいたハルも、今朝はぼーっとしていた。もう間も無く、インターンの集合場所である工場の最寄駅に着く。今日は土曜日ということもあり、電車は比較的空いていた。


 (なんとなく、私と同じような人がいるかも)


 空いていた車内には、スーツを着た若い人がチラホラ見える。もしかすると、同じインターンに参加する人かもしれない。だからと言って、ハルから話しかける余裕はなかった。


 (眠いけど、何か緊張する)


 初めてのインターンかつ知り合いがいないという状況に、ハルは緊張していた。そんな緊張を振り払うように、ハルは今日のことを考える。


 (とりあえず今日の目標は、このインターンを無事に乗り切ること!)


 自身に喝を入れていると、電車は目的地に到着した。ハルは電車を降り、改札口へ。スマホで地図を見ながら目的地に向かおうとしたが、先ほど電車内にいたスーツの学生を見つけた。ハルはスマホをしまい、その学生について行くことにした。理由は、自分の壊滅的な方向音痴さ自覚していたからだった。


 (ミキちゃんにあれだけ言われたんだから、ここは素直についていこう)


 以前、自身が友達であるミキを目的地に連れて行こうとして、1歩目から逆方向に進んでいたことを思い出す。あれ以来、ハルは自分で地図を見て進むことを極力避けていた。


 学生と思わしき人たちに着いていくこと約10分、ハルは工場の門の前まで来ていた。そこには立て看板が設置されており、『A食品会社インターン参加者は守衛所まで』と書かれていた。メールにあった指示の通り、学生証を提示し、質問に答え、工場の敷地内に入っていく。


 (思ってたより、普通かも)


 ハルのイメージとしての工場は、建物の外に配管がたくさんあって、色々な機材や資材が目につく、という物だった。ただ、今目の前で見ている工場とは、そういった雑多ものが目につくことはない。グレーのスッキリした外壁の建物がいくつか建っていて、作業着を着た人やスーツの人がちらほら歩いている、と言ったくらいだった。


 周りを眺めながら目的の建物に入るハル。他のスーツの人たちも、やはり同じインターンが目的だったようだ。建物内の案内板を見て指定されていた会議室に入る。そこには、4、5人の人が座れそうなグループ用の机があった。


 「おはようございます。正面の座席表を見て、自身の席にお座りください」


 会議室正面にいた社員さんの声が聞こえ、座席表を見る。ハルは自身がB班であることを理解し、席についた。


 (やっと会場に着いた〜)


 インターン開始まで、あと20分。





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 見山:レベル13

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就活レベル1のギャル女子大生は2ヶ月でレベル50を目指すようです あけがえる @akegaeru

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