9 夢から覚める瞬間は、いつも
梨紗が倒れた日。隣人が大きな音を聞きつけやって来て、そのまま現場を発見し父親は通報されたらしい。父親は既に、虐待と殺人未遂の容疑で逮捕されていた。
色々あったけれど、梨紗は僕たちの家族になった。
「大吾、今日どっかいこうよ」
僕らの持つリュックには、この前行き直した遊園地で買ったお揃いのキーホルダーが揺れている。
梨紗は長年続いた父親からの虐待によって自我が弱く、内気で怖がりだった。確かにそれはリサとは真逆と言ってもいいが、優しい内面や笑顔は何も変わっていなかった。
「今日は宿題やりたいんだけど」
「お願い!」
数ヶ月が経った今、梨紗は優しいクラスメイトにも恵まれ、前向きな性格に変わりつつある。特に僕の前では。
「しょうがないな」
そして、僕は梨紗にはめっぽう弱い。
「ありがとう」
僕らがどうして夢の世界で繋がっていたのかは分からないままだ。だけど梨紗は、夢の世界で会える僕に救われたと話していた。
だから、僕は梨紗をずっと守り続けると決めた。僕の世界は色づいたままだ。隣を歩く梨紗と僕の手は繋がれていない。梨紗を想うこの気持ちは、墓場まで持って行くつもりでいる。
夢から覚める瞬間は、いつも幸福だ。梨紗との逢瀬を楽しむ時間は死ぬまで続く。梨紗も僕も生きていたから、僕はこの幸福を手に入れた。
だからこの先も僕たちの命が尽きるまで、生きていこう。生きていれば、どんな辛いことだって乗り越えられる日が来る。
僕は梨紗への想いを封じ込めながら、人生で一度しかない今日を強く、生きていく。
夢から覚める瞬間は、いつも 朝田さやか @asada-sayaka
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