もはや何も信じられない主観のマジック

 自分のことをただの平凡な学生だと思っていた少年が、ある日突然自分がロボットであったことに気づくお話。
 と、書かれていることをそのままそっくり信用すればそうなると思うのですが、でも信じられる要素が何ひとつ……という物語です。あくまでも主人公の主観に沿ってのみ描かれる世界、つまりは一人称体の特性がうまく利用されていて、読んでいてちょこちょこ「いや、いやいやいやいやいや!」となってしまうところが魅力というかポイントというか、なんだったらもう「ここに書いてある内容なにひとつ正しくないのでは!?」となる感じが非常に楽しい作品でした。
 ある種の誇大妄想というか強い思い込みというか、突然支離滅裂な思考に取り憑かれてしまった主人公の、その頭の中を覗いている感じ(というか、そこを通してしか世界を見られない感覚)が凄まじいです。もう本当になにひとつ信用できない。周囲の人間の反応すら強固な被害妄想のように書かれていて、こうなってくるともうなにが事実でどれが妄想なのやら、というかいろんな精神疾患を同時に発症しすぎなのでは!? みたいなハラハラ感がもうすごかったです。強く生きて……。
 この主人公、かなり序盤に自分がロボットであることを確信するですが、そのきっかけがいまいちはっきりしないところが好きです。要は書かれていないのですけど、でもおそらくきっかけらしいきっかけはなくて、本当に急に来たんだろうな、と思わせてくれるところ。どうしてもわかりやすい原因を求めてしまいがちなところを、でもいきなり日常がぶっ壊れてしかもそのまま淡々と続いていくという、この理不尽なまでの唐突さにぞくりとしました。大事なものが壊れてなくなるときって、案外こんなものなんだろうなと思わせてくれる作品でした。