異質な設定の裏から突き刺してくる、ある種暴力的なまでの物語性

 格闘技にも似た過酷なショーに身を投じる『スワイパー』、そのトップランカー集団である『スワイパー・セヴン』のひとりであるところの主人公が、マネージャーの女性との最後の日々を過ごす物語。
 すごいものを見ました。すごかったことは間違いないのですが、でも読み終えてなお脳がその内容を受け止め切れていません。なんですかこれは……どうしてこんなものが書ける……。
 どうしても設定の部分に目が行ってしまうというか、どう考えてもいけないお粉とかを嗜みながら書いたとしか思えない設定がそこかしこに散乱しているのですが、その実このお話の核はただどこまでもまっすぐな青春物語というか、ゴリッゴリのディストピア小説です。
 それも肝心のディストピア要素はほぼ単語レベルでしか触れられていないのに、その世界に生きる人間のどうしようもない苦悩と葛藤を、擬態という行為に仮託しながら見事に切り出してみせる、その手際の鮮やかさと嘘のなさ、物語から絶対に逃げようとしない姿勢のようなものが、もう凄まじい勢いと威力でこちらの顔面に飛び込んできました。すごすぎる……終盤なんかはもう肌が粟立ちました。なんなのだこれは……。
 凄まじいです。なにしろ必要なものほど説明がなくて、なのにそれでも(だからこそ)わかるんです。作中三箇所にただ登場するだけの『廃棄物』という単語と、あとはマネージャーの彼女の選択と決断だけで、主人公が最後何に慟哭しているのかわかる。この「わかる」ことの気持ちよさ、物語のエッセンスをそのまま原液で注入されたみたいな凶悪さが、もう本当になんというか「殺す気か」という感じでした。死ぬかと思いました。いやもう、本当に面白かったです。すごいよ!

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