第5話 一件落着の先へ
「大丈夫だった……? 傷だらけじゃない! 怪人二万面相は人を傷つけないって話だったのに!」
「いやー、あはは……これはどちらかというと自爆というか……」
ヒメカは頭に手をやりながら苦笑する。
美々栗邸の門の前。目の前にいるのは、美々栗コノハその人だった。
ヒメカは怪人二万面相に逃げられたのち、警察に事の顛末を話した。騙したレオンには何度も謝ったが「別にいいけどさー、警部達全然オレが本物だって信じてくれないんだぜ。顔の皮を引っ張られすぎて痛いのなんの」とピントのずれた不平を述べるだけだった。
「で、おじいさんの発明品は取り戻せたの?」
コノハにこの変装劇を持ちかけたのは、ヒメカだった。ヒメカの祖父、ジャック・ルディスの強化外骨格を盗まれた事件からそう日も経たないうちに、今度は友人である美々栗コノハの父の発明品がターゲットになったのだ。発明家のネットワークは広いようで狭い。二人は元々、親同士に交流があり仲が良かった。
「うん、おかげさまで。コノハのご両親にも悪いことしちゃった。さすがにご両親にバレずに入れ替わるのは無理だし、片棒を担がせちゃって」
美々栗夫妻には事情を話し、コノハとヒメカの入れ替わりは事前に承知済みだった。ヒメカが入れ替わりを計画したときには、まさか偽のコノハの中身がさらに怪人二万面相になるなど思いもよらなかったが。
「でも、取り戻せて何よりだわ。だから……貴方も、返してね」
「え?」
コノハがおもむろに、ヒメカの横を通り過ぎる。
驚いて振り返ると、そこにはナノ粒子迷彩を手にしたレオンの姿があった。
「いやー良かった良かった。これにて一件落着だね。このナノ粒子迷彩、オレのおじいちゃんの形見でさ。人助けならまあいいかと思って見逃したけど、まだ仕組みが解明できてないんだよ。だから返してもらうね」
飄々とした口調で、そんなことを言う。
「あっ……ごめんなさい」
「うん、まあ別に悪用したってわけじゃないんだし気にすんな。それより早く来なよ、次の事件が待ってるんだ」
「え?」
言葉の意味を図りかねて問い直すと、にやりと笑ってレオンがいう。
「あんた、助手なんだろ? あんな入れ替わりをするなんてな、センスあるよ。頑張ろーぜ」
不意の言葉に、ヒメカも笑ってしまう。
変幻自在、神出鬼没。
掴み所のない、カメレオンのような発明狂。
彼がカメレオナードなんて呼び名でSNSを騒がせるのは、まだもう少し先の話だ。
変幻探偵カメレオナード 〜対決! 怪人二万面相〜 綾繁 忍 @Ayashige_X
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