謎の怪盗『怪人二万面相』の巻き起こす事件に、探偵として立ち向かう天才少年のお話。
ミステリでありSFです。児童文学というか児童向け推理小説のような、なんだったら少年漫画のような趣すら感じる、明快かつ王道の冒険活劇でした。
作品全体の雰囲気というか単一パッケージとしての在り方というか、狙ったところにきっちり収める徹底した仕事ぶりのようなものを感じます。主軸のミステリ部分は難しすぎないながらもしっかり推理パートを設け、SF要素に関しても分かりやすくワクワク感の高い未来ギアがどんどこ登場し、なにより話の真ん中で活躍するのはみな少年少女、大人たちはしっかり脇役然としているかちゃんと敵としての役割を果たすという、このガチっぷりというか仕事の行き届きぶり。昨今、どうにも一手捻った使われ方をされがちな「ヒーロー」的な存在を、でもここまでまっすぐしっかり書き通したお話というのは、それだけで本当に気持ちがいいです。
またミステリとSFというだけでもそうなのですけれど、結構いろんな要素を作中に取り込んでいるわりには、内容がすっきりしているのもすごいです。これだけいろいろあったら勝手にぶつかり合って渋滞しそうなものですが、ピシッと綺麗な一本道になっている。といって決して平坦なわけでなく、例えば推理パートでの立場の逆転のような一捻りもあったりして(ここ好きです)、非常に贅沢というか読後の満足感がすごいです。
一話完結の読み切り少年漫画のようなまとまりの良さ。でもそのまま連載作品にもできそうな、しっかり作られた安定感のある設定たち。細やかな仕事ぶりを感じる、爽やかでワクワク感のある作品でした。