第4話 部屋の中の暴風

 強化外骨格による怒りの一撃は、惜しくも怪人二万面相の周囲を薙ぎ払っただけだった。

『貴女は、美々栗……いえ……まさか』

「そう。私はヒメカ・ルディス。貴方が奪った人工知能搭載型強化外骨格の発明者、よ」

 今、私はどんな顔をしているだろう——ヒメカは頭の片隅でそんな風に思ったが、しかし祖父の渾身の発明品を盗んだ怪人二万面相は許せなかった。

「盗んだものを返してもらうわ!」

 叫びながら、腕を振るう。鉄腕が容赦なく部屋を蹂躙する。恐ろしいほどの出力。部屋が小型の台風に襲われたかのような有様になっていく。

 二万面相は忌々しくもひらりひらりと腕を避けていくが、少しずつ部屋の隅に追い詰めつつあった。

『それは、使用者の負荷が高すぎて廃棄された試作機では……だからこそ人工知能で制御する発想が生まれたというのに、いやはや』

「ごちゃごちゃうるさい!!」

 口の減らない怪人に殴りかかる。二万面相は体の位置を入れ替えるようにして、ヒメカの攻撃を回避する。

 腕を振るいながら、ヒメカも内心では、自分も二万面相と変わらないと感じていた。

 <作戦会議>で、レオンが怪人二万面相に扮することを決めた。わざと警戒度を高めるためだ。そしてヒメカがレオンに変装し、コノハは驚くべきことにレオンの執事が変装した。二万面相が研究所を監視していることは想定していたので、新しい助手コノハとの入れ替わりを狙ってくると読み、健気な執事は囮役を買って出たのだ。案の定、眠らされてしまったが。

 そして土壇場でヒメカはレオンを襲い、彼のナノ粒子迷彩を拝借し、起動させて消えた。持ち込んでおいた強化外骨格を着込み(重たいので、ラボード警部に運ばせた)、姿を消してエアライダーを追うために。

『やれやれ……しかしこれは分が悪い。今日のところは負けにしておいてあげます。地下室に行ってご覧なさい、頂いた強化外骨格はそこにあります。それでは、さらば』

 言うが早いか、怪人二万面相は窓からその身を投げ出す。

 ヒメカが慌てて駆け寄ると、彼はドローン・ボードであっという間に夜空に消えてしまっていた。

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