まず主人公が良い。
この手の話に有りがちな純粋な良い子ちゃん主人公ではなく、矢鱈と強キャラというわけでもなく、良いところもわるいところも併せ持つ私たち普通の人間と同じだと云うことが一人称視点の心の声からうかがえ、その分生きたキャラになっている。
無理にキャラ付けしようとしすぎて作者の人形遊びと化した作品を読んだ後だと特にそう思う。
しかしこの作品の本当の価値は聖女アマルダに有るのではないだろうか?
悪意に凝り固まった悪役など可愛いものだと思わせる危険物、それがこいつ。
話が通じない上に、明瞭な悪意も無く善意らしき何かと被害者意識で男共を味方に引き入れる。
お陰で下手な反撃や反論は立場を悪くするだけで主人公に被害を及ぼす。
絶対に係わりたくないと思わせるヤバさは一見の価値あり。
聖女物はたくさんありますが、ここまですがすがしいくらい他人の気持ちや、事情に鈍感というか、全く配慮できない(多分能力としてない)、そのくせ、本人は相手のことを思って、相手のために尽くしていると信じている聖女の物語は初めてです。
そもそも自分が選ばれたのに、主人公のエレノアに頼み込んで最低神の聖女を代わらせて自分はちゃっかり最高神の聖女に収まって、何の良心の呵責もない。挙句の果てに、主人公の婚約者のところに頼まれてもいないのに出かけて、破談にしてしまう。ハッキリ言って、迷惑どころか、消えてほしいくらいのことをしても、私は相手の為を思ってやっていると信じている。ここまでくればサイコパスにしか見えません。
読者は、このアマルダに相当ないら立ち・不快感を覚えると思いますが、ここまでのアンチヒロインを生み出した作者の筆力に脱帽です。
もちろん、主人公のエレノアさんが幸せになることを期待して読んでますが、ある意味アンチヒロインアマルダを追っかけているのも事実です。