第5話完璧すぎる計画の終焉
「つまり、犯人のこの女は、家が道路で立ち退きになることになり、お金が入ることを、元々知っていたわけですね」
「ええ、特にこのお宅が高額を手に入れることができると知った。しかも御夫婦ともに持病があるので、そう長くは生きることは出来ないと思ったのでしょう。そして一人息子さんがいるのを知って」
「凄いですね、略奪愛でお嫁さんを追い出して」
「ええ、お舅さん、お姑さんと数か月の間に連続で亡くなって、ご主人の体調も崩れ始めた。保険会社の方が先に動いていたという話もあります」
「しかし、待っていればそう遠くないうちにお金も手に入ったでしょう」
「さすがにそれまでは待てませんよ。自分を完全に、完璧に「装っている」訳ですから。そのストレスは凄いものだったとも思いますよ。ご主人もいなくなればそれから解放されるわけです。本来は浪費家なのに、真反対の事をしているんですから」
「しかも、毒殺とみられるご両親は、かなりの額の預貯金を持っていたという噂ですね」
「本当に大昔、バブルの頃に儲けたものを、ずっと持っていたそうですね」
「それも知っていての事ですか? 」
「多分そうでしょう。本人は全く否定していて、毒入りのお菓子は
「前妻が送って来たのかもしれない」と言っているそうですから。警察にとってみればそれが糸口だったんでしょう。ちょっと安易すぎる嘘ですね。いろいろ本当に周到に準備して完全に上手くいっていたのに、このことで瓦解したと言っても過言ではない。
犯罪心理学の立場からして、女性の金銭目的の事件をすべてひっくるめたようなものですね」
「美味しい料理、毒入りの食べ物、ですか・・・」
テレビではどこのチャンネルもこのニュースを大々的に報じた。もちろん取材陣がここにも来て、Qさんもインタビューを受けたそうだが、いわゆる「コンプライアンス」の関係なのか彼女の顔がテレビに映ることはなかった。
それよりも世間は、ドラマになりそうな美しい犯罪者の方に興味のすべてが向いていた。彼女の過去のすべて、男性遍歴などから
「何故こうするまでに至ったのか」という謎解きを一か月以上やっていた。
「お母さん、気分が優れないでしょ」
「どうしたの、優しいことを急に」
「声に元気がないもの・・・」
竹を割ったような性格の娘がそう言ってくれた。
「あんまり心のうちにためるとよくないわよ、それこそ、ストレス発散のために、ご近所さんで話したら? 」
「それがそんなことできないのよ。さすがに大勢で噂していたら、こちらが悪く言われるような事でしょ? 回覧板を持って行くときにちょっと話すくらいよ。何せ被害者は私たちと同年配なんだから」
「気分転換に、こっちに来たら? 」
「ああ、そうね、そうしようかしら」
そこで夫婦で娘、息子の所に小旅行をした。
「今度絶対行くからね、またオニヤンマを採りたい! 」
孫たちは楽しそうに言ったが、その夢は虫よりももっと小さな生き物によって、長期間の延期となってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます