小恐怖 完璧な妻
@nakamichiko
第1話 三猿
「見ざる 言わざる 聞かざる」
この言葉は古くから知っていたが、あまり深く考えることも、強い人生訓と思ったことはそれほどなかった。しかしこの言葉を英語で訳したものを知った時、改めて人が語り継いできた教訓の一つとなった。
「シー ノー エビル ヒア ノー エビル スピーク ノー エビル」
訳すると「悪いことを見ない、聞かない、言わない」となる。
残酷な場面、蜜の味と言われる他人の不幸話 悪口、と私的にはそう捉えている。
しかし実際に残酷な場面、犯罪も含めても、それを目の当たりにすることは極めて少ない。しかしあとの二つを「そうしないようにすること」には信念に近いものが必要となる。小学生の孫を持つおばあちゃんの、私の人生を振り返ったとき、少なくとも後半二つは閻魔帳にかなり記載されていても仕方がないことである。
しかしながら、ある一つのことに関しては、私はこの三猿を貫こうと心に決めている。それは私だけではない。この近隣に住む人達の多くが、暗黙の了解のように触れないことにしているようだ。何故ならそれは、最初の「見ざる」もある種含んでいるからだろう。
だが私たちは誰も直接見た訳ではない。
それはこの国でもかなり離れた所で起こった出来事であったにもかかわらず、
「夢に出て来る」ほどの現実味と恐怖を帯びたものだった。
数年前に起こった、完全に解決した事件であったが、なんとも後味が悪すぎ、できれば記憶の中から「消したい」と私は本当に思っている。
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