第4話別の理由


 このことにあまり関わらないようにしていた私であったが、やはり少しは情報が入って来ていた。新しいカップルは本当に幸せそうにしていて、「義父も義母も本当に優しい方です」というお嫁さんの言葉と、それに対して「死ぬ前に最高の嫁に会うことができた、これでいつ死んでもいい」という、羨ましいようなやり取りもあったそうだ。その上、節約術も心得ていて、つつましやかな生活をしているとか。

私たちが近所で噂をしなくなったのも「予想が大外れ」の可能性が高くなったからだった。


「親御さんが資産家などではないようですから本気の恋愛ですかね。大体悪いことをする人は、お金使いが始めから荒いですから」と推理小説好きの奥さんの言葉が、結局最新の結論になっていた。

一方、Qさんはと言うと、このことに耳をふさいでいるのか、工業用ロボットのように、会っても全く同じ挨拶をするだけだった。



今考えれば、ここで終わっていたら良かったのだ。


 私たちの予想通りにはいかなかったけれど、「普通の人に現れた、奇跡のような完璧な妻」は世の中にいて、その夫婦が略奪愛にせよ、とにかく上手くいっているのならば、それでよかったのだ。精神的犠牲者は一人あったが、その犠牲者は「生きている」のであるから。



 その日、携帯があるのでもう処分しようかと思っていた家の固定電話が、どこか強く鳴り響いた。


「すいません、突然お電話して、もしかしたら覚えていらっしゃらないかもしれませが」

慣れた感じの丁寧な口調で、私と同じくらいの年齢の男性は話し始めた。

「ああ! 甥の結婚式でお会いした! 」

彼の舅だった。

「警察官の娘と結婚するんだよ、悪いことなんて絶対に出来ない、こっちなんて一ひねりだよ」結婚前、甥がそう言って笑っていた。お会いしたのは式の時だけだったが、身長も高く、見るからに鍛え上げられた体だったことを思い出した。


「実はちょっとお聞きしたい事があって」

「何でしょうか? 」

「Qさんは娘さんの同級生でいらっしゃいますよね・・・」

「はい・・・」


彼女の人となりを詳しく聞かれた。そしてそのあと


「それでは、その・・・離婚されたことを恨みに思って何かをする人ではないと思われますか? 」


「それが・・・正直言ってよくわからないですね。会っても何だか感情があるようでないというか」


「そうですか、ありがとうございます。すいませんがこのことは内密にしていただけますか? もしかしたら・・・あと少ししたら表に出てくるかもしれませんが」


人と人との色々な繋がりを感じざるを得なかった。


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