第317話「シャケ、愛人を要求する!?①」
「父上、レオニーを私に下さい!」
カジノロワイヤルから数日後(体感的には何故か二年後)、王都へと帰還した私は真っ先にやってきた「自分の父親」の部屋で叫んでいた。
「「……はぁ?」」
一方、息子が突然やってきてそんなことを叫び出した為、私の父親で国王のシャルルと宰相で公爵でセシルの父親でもあるエクトルは困惑し、二人揃って猫ミームの『はぁ?猫』みたいな顔になっている。
まあ、冷静に考えたらそれは当然の反応なのだが、この時の私は頭に血が登っており、そんなことはお構いなしに同じことを繰り返す。
「ですから!レオニーを私に下さい!」
「「……はぁ??」」
まるでドラマか小説のワンシーンのように叫ぶ私と、相変わらず猫ミームみたいに困惑するナイスミドル二人。
さてさて、何故このような訳の分からない状況になっているのかと言うと……。
皆様お久しぶりでございます、主人公という名の社畜ことマクシミリアンです。
私のことを覚えていらっしゃるでしょうか?
思いのほか出張先から帰って来るのに時間が掛かってしまい(何故か体感で二年ぐらい掛かった気がします……)、皆様の記憶に残っているか心配でなりません。
それに何と言っても私の周りは超個性的な人間ばかりなので、ジ◯カスタム並みに無個性の凡人である私は影が薄くて心配になるのですよ……。
おっと、話が脱線してしまいました!
話を戻し、何故こんなことになっているのかをご説明しますね!
まず多忙の中、突然父上に出張を命じられた私は約一週間ルーアブル軍港とムラーン=ジュールという街に滞在したのですが、そこで金と時間と体力を盛大に浪費し、更にストレスまでも溜め込んでしまうという不幸に見舞われてしまいました。
本当ならば、ちょっとした式典への出席と保養の筈だったのですが……。
何故か自分の名前がついた軍艦2隻を目の当たりにするいう精神的な拷問を受けた後、見た目だけなら最高レベルの美女二人を侍らせながらカジノで豪遊と乱闘……などと訳の分からない展開の連続……。
もう、訳が分かりません……。
お掛けでメンタルも体力も限界です……。
とまあ、兎に角色々あったのですが、それもこれも全て父上達の所為なのです!
連中が気まぐれに超多忙の私に出張など命じたからなのです!
本当に許せません!
そして、さらにさらに!
帰りの馬車の中で私はレオニー本人……ではなく部下の乳牛メイドから衝撃の事実を聞くことになってしまったのです。
内容は以下の通り。
……。
…………。
………………。
帰りの馬車の中で現状や今後のことを色々と思案し、取り敢えず次はフィリップ関係から片付けようかな?などと考えていた私は、目の前で寝ている極上のライオン系美女達と怯える牛系メイドを何気なく見ていた。
「ふぇ〜ゼロ距離でライオン姉妹、ひとよんで「獅姉妹(ししまい)」に挟まれてメンタルがヤバいのですぅ〜……チラッ!」
するとリゼットが震えながらそんなことを呟き、助けを求めるようにこちらを見てきたので、
「……」
私は視線を車窓へと晒し、新ユニット誕生かな?とか思いながら自然な感じでそれをスルーした。
「ふぇ〜……酷いのですぅ〜」
リゼットが涙目になっているが、まあいいか。
それからぼんやりとライオン姉妹がリゼットの巨乳を左右一つずつ器用に枕がわりにしているというシュールで平和な光景を眺めながら思った。
(労働力的な意味で)レオニーを再び私のもの(部下)にすることが出来て本当に良かった。
もししくじれば大変なことになるところだったからな……。
何故なら近い将来、私の手元から二人の有能なビジネスパーソンことライオン系侍従武官と悪役令嬢系金融メイドが抜けて労働力が大幅に低下して、私に過労死の危機が迫っていたからだ。
だがレオニーを手元に置けるなら辛うじて持ち堪えられる、という希望が見えたのだ。
つまり、大変な出張だったが成果としては上々。
「取り敢えず良かった良かった、めでたしめでたし、だなぁ……ふぅ〜」
と何気なく口に出しながら疲れた笑みを浮かべ、私は肩の力を抜いたのだった……のだが。
「ふぇ〜、肉食獣怖いのですぅ〜……あぁ!ところで殿下ぁ〜」
そこで私の言葉を聞いたリゼットが何か思い出したように口を開いた。
「ん?何だい?」
私はそれに穏やかに答えた。
するとリゼットは、
「そういえばぁ〜ポンコツ上司についてぇ〜一つお伝えしなければならないことがありましてぇ〜」
何故か少し申し訳なさそうな顔でそう告げた。
「?」
ん?今更なんだ?
「殿下は今回ぃ〜労働力不足を補うためにこのメンヘラ女……じゃなくてレオニー様を回収なされたのですよねぇ〜?」
「ああ、その通りだが?」
それが何かマズイことでもあるのだろうか?
私が首を傾げているとその矢先、
「実はぁ〜色々ありましてぇ〜レオニー様は上から殿下に接近禁止……じゃなくってぇ〜、え〜とぉ〜別のお仕事に専念するように命令されててぇ〜、特に殿下のお仕事を手伝うことは禁止だと厳命されておりますのでぇ〜このままだと殿下のお手伝いができないのですぅ〜」
リゼットから衝撃の事実が飛び出す。
「……え?」
ピンポイントで「私を手伝うな」と命令だと?
どういうことだ?いじめか!?
唐突に出てきた衝撃の事実に驚き、私は思わずフリーズしかけたのだが……。
「それはマズイ!非常にマズイぞ!…………ん?いやまてよ?」
すぐに冷静になり、
「別に大した問題ではないだろう?」
落ち着いてそう言った。
「ふぇ?」
私の反応にキョトンとする牛。
そんなリゼットに私は全てを解決する、単純な事実を告げる。
「私は王子だぞ?」
そう、辞める予定とはいえ、なんと言っても私はまだ(一応)王子なのである!
「つまり!例え相手が誰であろうとも、それこそ有力貴族だろうが大臣級の政府組織の幹部であろうがロイヤルパワーで何とでもなるのさ!キリッ!」
そして最低なことをドヤ顔で言い放った。
「あぁ〜、なるほどぉ〜……」
が、リゼットの反応は微妙で、むしろ何故か憐れみを含んだ目で私を見ている……気がする。
あれ?リゼットが微妙な反応をしている?……どういうことだ?
と首を傾げた直後、私はこの牛型メイドによって地獄に突き落とされることになる。
リゼットは言いにくそうな顔でおずおずと……。
「ふぇ〜、マクシミリアン殿下ぁ〜、イラっとする見事なドヤ顔のところ非常に申し上げにくいのですがぁ〜……それは多分「王子」でも無理なのですぅ〜……」
よく分からないことを告げた。
「え?王子でも?な、何故だ?」
私は少し動揺しながら問い返す。
え?何で?ロイヤルパワーが通用しない相手などいる筈が……。
というか今この牛、何気に酷いこと言わなかったか!?
この駄牛!不敬罪でステーキにして……いや、乳牛だから食用には向かないのか?では牛舎にぶち込んで……。
などと、くだらないことを考えていた、次の瞬間……。
「レオニー様へ命令したのが国王陛下なのですよぉ〜」
私はリゼットに絶望的な事実を突きつけられてしまった。
「え?………………ガチィ!?」
あまりの驚きと衝撃で思わずちょ◯先生みたいになってしまった私に、リゼットは相変わらずのんびりと答える。
「ガチなのですぅ〜」
「くっ……!」
あの(元)髭親父がぁ!なんてことしやがる!
私は思わず絶叫しそうになったが目の前で寝ているメスライオン達を見て何とか我慢し、心の中だけで叫んだ。
はあ!?わざわざ私を手伝わないように命令だと!?
父上は何を考えている!?
私を殺す気なのか!?
ここ最近は(労働時間的な意味で)なかりギリギリで生きていたのに、このままでは確実に過労死してしまう!
それもこれも全て父上達が悪いのに!
まったく、これだから現場の気持ちが分からない上の連中は……!!
きっとあの二人は現場の刑事に「事件は会議室で起きているんだ」と平気で言えるタイプなのだろうな……。
ぐぬぬ!俺たち現場の刑事が地べたを這いずり回っている時に、連中は大理石の階段を……ではなくて、今はこの事態を何とか……何とかしなくては!
ここままでは再び生命の危機だ!
万が一レオニー(という名のハイスペック労働力)の獲得に失敗すれば私の過労死が確定してしまう!
そんな悲惨な未来を回避する為には………つまりレオニーを手に入れる為には………くっ!また……またまた父上達と直談判しかないのか!!
しかも命懸けの、だ!
全く、何回あの部屋に通えばいいんだよぉー!
……それから暫くして宮殿のエントランスに馬車が滑り込むや否や私はすぐさま地上に降りたち、出迎えの侍従や衛兵をスルーし、唖然とする彼ら置き去りにしてツカツカと足早に磨き抜かれた廊下を抜けてあっという間に国王の私室へ到着。
慌てる侍従長をシカトし、すぐさま怒りのノック3連をドアに叩き込んだ。
それからロクに返事も待たずに重厚な扉を勢いよく開け放ち、開口一番は私はキレ気味に叫んだのだった。
「父上、レオニーを私に下さい!」
……。
…………。
………………。
と言う感じでレオニーを手に入れることが最優先だという結論に至り、私は真っ先に父上の部屋に乗り込むことにした訳なのでした。
読者の皆様、あけましておめでとうございます。そしてお久しぶりです。作者のにゃんパンダです。
この度、中断していた本作の連載を漸く再開することが出来ましたが、本話の中でうちのシャケが言っているように最後の更新から二年も間が空いてしまい、応援してくださっていた皆様には申し訳ない気持ちで一杯です。
二年前からプライベートでネガティブなことが続き、連載を再開する気力もなく正直このまま本作を終わらせてしまおうか、などと思いかけておりました。しかし、最近ポジティブな意味で「サプライズ」が起きまして、それがきっかけで再びこうして復活することが出来ました。ただ残念ながら更新ペースは以前のように週二回は難しく、週一回以下になると思われます。またブランクが長かった為、私自身が本作の内容・設定等を忘れてしまっている部分があるので極力ないように努力しますが話が矛盾する部分が出てくる可能性がありますので、その点はご容赦ください……(おかしいと思った点はどんどんご指摘下さいませ!)。
ですが再出発したからには、また皆様を笑顔に出来るような話を頑張って書いていきたいと思っておりますので、再び応援して頂けるとありがたいです!また先程述べた私が復活するきっかけとなった「サプライズ」ついて、少し先になりますが詳細をリリース致しますのでお楽しみに!……だいたい想像はついてしまうと思いますが(笑)
それでは皆様、今後とも本作とシャケとイカれたヒロイン達を宜しくお願い致しますm(_ _)m
そうだ、王子辞めよう!〜婚約破棄(する側!?)から始まる転職活動 (自称)無能な王子は廃嫡を望む〜 にゃんパンダ @nyanpanda
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