ゾンビひしめくショッピングモールで地獄のサバイバル

 ある日突然降ってきた隕石を皮切りに、人間がゾンビ化するようなった世界で、どうにかして生き抜こうとするひとりの男のお話。
 ゾンビパニックもののホラー(あるいはSF)です。実はゾンビものはあまり詳しくないのですが、でもそんな自分でもなんとなくゾンビに求めちゃうことが全部詰まった、満足感たっぷりの立派なゾンビものでした。このゾンビなら休日に一緒に歩いてるとこ見られても全然恥ずかしくないというか、たぶん自慢できるやつです。人のゾンビにマウントをとっていこう。
 主人公が好きです。より正確にはその主人公の魅力を余すところなく引き出してくれた、『Day1』(最初の一話目)が本当に好みでした。きっとストーリー的な側面から考えるとただの助走、あるいは準備体操みたいないわゆる「話の枕」そのものなんですが、ここに書かれている内容とその語り口だけですっぱりきっちり主人公のイメージが固まってしまう、というのは、その短さを考えるとなかなかとんでもないことだと今気づきました。特に語り口というか文体が好きです。独白調、それもどこか投げやりな短文の言い切り。書かれた文字自体の持つ情報でなく、その型から伝えられる情報の、その豊かさがもう心地いくらいです。
 タブロイド紙の記者として、やりがいのない仕事を嫌々こなすだけの日々。このうらぶれ感というかやさぐれ感というか、擦れまくった投げやりな感じ。しかしいざ大惨事に見舞われても決してうろたえることなく、ただ淡々と生存への道を模索する、この静かなタフガイっぷりがなんとも魅力的でした。どんなに絶望的な状況でも、しかししっかり前に進んでくれる主人公。そしてその彼が時折見せる感傷的な側面。ああこれはどうあがいても彼あっての物語だと、そう思わせてくれる見事な主人公ぶりの嬉しい物語でした。